ツイてる乙女と極悪ヒーロー【10】


 お弁当を食べ終えて、午後の授業が始まるまでの時間をのんびりしていると、くるみが唐突に切り出した。

「これから、どうするの?」

 何を、とは言わなかったけれど、もちろん次郎のことだとすぐに分かった。

 答えを口にすることを戸惑ったのはほんの一瞬で、こうなった時からずっと頭にある言葉を口にした。

「除霊しかないよね」
「ええっ!? 除霊しちゃうの??」

 くるみに今日初めて驚いた声を上げられて、逆にこっちの方がもっと驚いた。

「普通するでしょ!!」

「だって、鹿沼くんはハナちゃんの幼馴染みでしょ?」

 くるみの尤もらしい意見に言葉に詰まってしまう。

 確かに次郎は幼馴染み。
 物心ついた時にはすでに隣で鼻を垂らしていたし、幼稚園の入園式卒園式、小学校の入学式卒業式、ありとあらゆるイベントの写真には、必ずと言っていいほど私の隣には次郎がいる。

 ずーっと一緒にいたんだし、ちょっと幽霊になっちゃっただけで、一緒にいることはこれからも変わらないよね。

 …………。
 なんて、思うわけないでしょ!!

 もう少しでくるみのほんわかワールドに引き込まれるところだった。

「くるみ、よく考えて。次郎はね、死んでいて、幽霊になって、私に取り憑くって言ったんだよ?」

「うん。でも鹿沼くんはハナちゃんと幼馴染みだし、ハナちゃんに悪いことなんてしないと思うよ?」

 くるみにも真剣な顔をして返されたけれど、心を折っている場合ではない。

「朝起きて一番に見るのが次郎の顔だよ? 着替える時も同じ部屋にいるし、ご飯食べる時も、学校行く時も一緒だし、それから……」
「なんかラブラブなカップルみたいだねぇ〜」
「もうっ!! くーるーみー!」
「でも、ハナちゃん鹿沼くんのこと、前は好……」
「除霊! 何が何でも除霊!!」

 くるみが忘れたい過去を口にする前に、決意するように声高に叫ぶ。

 周りにいる人から冷たい視線を浴びたことに気付いたけれど、次郎に憑きまとわれていることと比べればどうってことない。

「うーん……でも、除霊って具体的にどうすればいいのかな?」
「そう、それなんだよねぇ」

 ようやく私の気持ちに気付いてくれたのか、くるみが除霊に協力してそうな雰囲気に自然とテンションが上がる。

 除霊と聞いてまず思い浮かべるのは、夏のテレビの特番などで見かけるアレ。

 なんか○○師みたいな人が出て来て、取り憑かれた人に話しかけて追い出す、みたいな感じだったと思う。

「まず霊と話せる人を探して、それから……」

「え? ハナちゃんは話せるでしょ? 成仏して下さいって、鹿沼くんにお願いしてみるのはどうかな?」

 目を輝かせてこっちを見るくるみに、申し訳ないけど私は黙って視線を逸らして、聞こえなかったことにした。

 それが出来たらこんなに悩んでないよね。

 また一から説明するべきなのか、それとも一人でどうにかするしかないのか、答えの出ない問題を悶々と考えていると、足元に影が近付いて声を掛けられた。

「成仏って? こんな天気の良い日に、二人でオカルト話?」

 顔を上げると同時に、くるみの声が弾んだ。

「流生ちゃん」

 くるみには流生ちゃんなんて呼ばれているけれど、メガネがよく似合う賢そうな男子で、学園で彼の顔を知らない人は居ない。

 生徒会長の御嵩流生(みたけるい)は、くるみの幼馴染みで、同じように名家のお坊ちゃまらしい。

「日向ぼっこしながら、怖い話してんのー? 俺はどっちかってゆーと、昼寝したいけどねー」

 そしてもう一人、御嵩くんが正統派の優等生だとしたら、スポーツ万能な元気っ子の曽根川風汰(そねがわふうた)が、子犬のような人懐っこい顔で笑った。

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