緋の邂逅 第八話
次の日も心愛は夜になるとこっそり外へ出た。
ジャングルジムへ登ろうとすると、どこからか現れたデリクが、心愛を荷物のように抱えると、最初の晩と同じように膝の上に座らせた。
「デリクお兄ちゃん!」
「また抜け出して来たのか」
「あのね。お兄ちゃんが悲しいお顔してたから」
「はっ!?」
突拍子の無い心愛の発言に慣れたはずのデリクも、思いがけない言葉を掛けられて目を丸くした。
「悲しい時はね、お手手をつなぐといいんだよ!」
心愛はデリクのシャツの袖口を引っ張ってから、小さな手でデリクの人差し指と中指を掴んだ。
予想もしていなかった心愛の行動に、いつも平然としているデリクはどうしていいか分からずうろたえながらも、握ってくる手の温かさに振り解く事は出来なかった。
「こうしていればお前も悲しくないか?」
「うん!」
「そうか」
デリクは何の疑いもない無邪気な心愛の瞳を見ている時だけは少しだけ表情を緩ませた。
それから夜になると心愛は毎晩のように外へと出た。
二人は約束を交わしたわけでもないのに、心愛が現れるとすぐにデリクが姿を現し、ジャングルジムに登り、膝の上に抱えながら他愛もない話をした。
一方的に心愛が話をしてデリクは頷いているだけだったが、二人の会話はそれなりに成立して心愛は新しい友達が出来たと喜んでいた。
兄や園長先生にその事を話しても同情するような顔をして慰められた。
「園長せんせもお兄ちゃんもデリクお兄ちゃんとお話すればいいんだよ!」
日課となったその日の出来事を話した心愛は、片方だけ赤く腫れあがっている頬をさらに膨らませた。
心愛の話を信じようとしないさと子は夜のたびに抜け出す心愛を叱りつけ、妹の面倒も見れないのかと兄の大智までも叱り付けた。
余計な説教をされたと、その後に大智は隠れて心愛の頬を力いっぱい打ったのだ。
「殴られたのか?」
赤く腫れた頬を見てデリクは眉を寄せると、そっと伸ばした指の背で心愛の頬に触れた。
少し冷たい指先に心愛は「痛くないよ」と首を振ったが、その瞳は泣き腫らしたとはっきり分かるほど真っ赤になっている。
「心愛が悪い子だからいけないんだって。でも心愛嘘ついてないもん! デリクお兄ちゃんは心愛のお友達だもん。ずっと一緒だよね?」
「あのな……」
デリクはいつになく不自然に視線を泳がせた。
何度も躊躇いながらデリクは重々しく口を開いた。
「俺が居なくなっても寂しくないか?」
「お兄ちゃん?」
「お前には兄もいる。寂しくないよな」
「どっか行っちゃうの?」
「あぁ。遠くへ行く」
デリクの言葉に心愛の表情が曇った。
膝の上でバタつかせていた足を止めると、背を丸めた心愛はシャツを掴んでいた手をギュッと握り締めた。
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