『姫の王子様』
花火 P12

「で…タマは気合入ってんの?」

「へ?」

 間抜けな返事が返って来た。

 力説しながら握り締めていた手を中途半端な位置で止めてポカンと俺の顔を見上げた。

 他人のことには敏感なのに自分のことには鈍感か?

 足を止めたタマの横で俺も立ち止まる。

 タマの視線が不自然に泳いだ。

 どうやら俺の質問の意図を理解出来たらしい。

「え?私…だって…」

 そう切り出したタマは目を伏せた。

 さっきまで笑顔だったタマの表情がにわかに曇りハッとした。

 決してタマを傷つけるつもりはなくてただちょっと聞いてみただけで…こんな顔をさせるなんて。

 タマはすっかり意気消沈して俯いてしまった。

 ジロジロと不躾な視線を浴びていたがそれは俺がモデルのヨウだとバレたからではなくこんな日に女の子を泣かせそうになっているバカな男だからだ。

 花火大会に向かう人達の邪魔にならないようにタマを歩道の端に引き寄せた。

 かなり暗くなってきた道端でタマの前にしゃがんだ。

「タマ?」

 俺はしゃがんでタマの顔を見上げた。

 悲しそうな視線を返されて胸の奥がギュッと締め付けられた。

「タマ?」

 もう一度呼びかけるとタマの瞳に涙が滲んでギュッと唇を結んだ。

 体の前で握り締めてる手をソッと取った。

 強張った手を解すように撫でながら両手を優しく握った。

「ごめんな。俺の言い方が悪かった」

「庸ちゃん…」

「俺のために着てくれたんだろ?」

「違うもん!」

 すっかりへそを曲げられてしまった。

 膨れっ面でプイと横を向いたタマの耳でピアスがぶらぶら揺れる。

 揺れるピアスの先に手を伸ばした。

「俺は浴衣姿のタマに着けて欲しくてコレを作ったよ」

 不器用な花の絵のとんぼ玉を指先で弄びながらタマの顔を覗きこむ。

 きょとんとした表情のタマの唇が震えながら開く。

「庸ちゃんが作ったの?」

「そうだよ」

「私のために…?」

「タマ以外のために作ったらお前、泣くじゃん?」

 からかうように笑いながら言うとタマの表情が泣き笑いになった。

 少しホッと胸を撫で下ろしながら握っているタマの手を強く握った。

 お前はどうなの?とタマの顔を覗きこんだ。

「庸ちゃん以外のために着たら泣いちゃうから仕方なくだもん」

「可愛くねぇっつーの!」

 立ち上がりながら撫で回すタマの頭にはコサージュ風の髪飾りの代わりに自分の作ったかんざしが挿さっている。

 俺が笑顔になるとタマの顔もようやく綻んだ。


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