『姫の王子様』花火 P11
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃ〜い!」
「じゃあ俺も…」
睦美さん達に見送られていると拓朗が当たり前のように玄関に来てサンダルを引っ掛ける。
「あなたはお留守番でしょ」
睦美さんがすかさず拓朗の襟を掴んだ。
まるで子供みたいに手足をジタバタさせている拓朗を尻目に門の向こうで待つタマの元へ向かった。
陽が落ちたばかりでまだ明るい道を二人で並んで歩く。
花火大会の会場の公園までゆっくり歩いて20分。
当日は盆踊りもあり屋台も公園を囲むように出てとても車で近寄ることは出来ない。
小さい頃から歩いて花火大会へ行っていたせいか今日も迷うことなく昔歩いた道を二人で歩いた。
徐々に薄暗くなる中を下駄の軽やかな音が響く。
「ね!ね!あそこの二人って付き合ってすぐだと思わない?」
隣を歩くタマが俺の袂を引っ張って少し前を歩く二人を指差した。
前を歩く二人は高校生くらいだろうか彼氏の方はTシャツにジーンズで彼女の方は浴衣を着ていた。
見ただけでどうしてそこまで分かるのか首を傾げているとタマに強く引っ張られて体ごと傾いた。
「引っ張るなっつーの!」
「そんなこといいから!」
そんなことって…おまえなぁ。
文句の一つも言ってやろうと浴衣の襟を直しながらタマを睨みつけたがタマの視線は前の二人に釘付けだ。
「あんまジロジロ見んな!」
小さな頭を片手で掴んで無理矢理横に向かせた。
頭を固定されたタマは視線だけを俺に向けたがどうしても前の二人が気になるらしくチラチラと見る。
ったく…久々のデートだろ。
「でもでも…あの微妙な距離は絶対付き合い始め!ううん、もしかしたらまだで今日どっちかが告白するのかも…うん」
ここからじゃ聞こえるはずもないのにタマは秘密を打ち明けるような声で囁いた。
また始まったよ…。
少女マンガが大好きで夢見がちなタマは何かというと勝手な妄想を繰り広げるのが好きらしい。
何を根拠に…と思いながら前の二人に視線をやる。
確かに二人の間には微妙な距離があってこちらから見ていてもぎこちなさが伝わる。
「まぁ…確かにそうかもな。でも上手くいってないだけかもだろ」
「そんなんだったらわざわざ浴衣着るわけないよ!髪だってあんなに気合入ってるんだよ!女の子はね好きな人の前では可愛くいたいの!」
鼻息荒く力説するタマは拳を強く握り締めた。
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