『姫の王子様』
ある夏の一日'08 P10

「珠子?どうしたの?」

 スライダーの順番を待っている珠子はボンヤリと下を眺めていた。

 沙希は珠子の後ろから下を覗き込んだ。

 眼下には流れるプールがありのんびりと人がプカプカしているが見えた。

「なんか〜イチャイチャしてるのいいな〜」

 そう言って珠子が下を指差した。

 指の先には流れるプールで彼女の浮き輪に彼氏が掴まってイチャついているカップルがいた。

「あ〜私もやりたいなぁ〜」

 と口にしたのは沙希。

 驚いた珠子はガバッと勢いよく振り返った。

「珠子の心の声を代弁してみました〜」

「もうっ!沙希〜〜」

 悪戯っぽく笑う沙希に珠子はプゥと頬を膨らませた。

 だがすぐに寂しそうな顔になった。

「今度一緒に来ればいいじゃない」

「ん〜そうなんだけどね〜」

 沙希は珠子の肩をポンポンと叩いた。

 珠子は少しだけ笑顔になって手摺りに掴まりながらプール全体を見渡した。

 高い所から見ると地上にいる人達はかなり小さく見えた。

「そう言えばね…さっき篠田くんが気になる事言ってたんだけどね…」

 沙希が思い出したように話し始めた。

「ん?篠田くん?」

「うん…私達の中に誰かストーカーされてる人いる?って…」

「ストーカー!?」

 沙希の言葉に珠子が大きな声を出すと周りに居た友達も心配そうな顔で話に加わって来た。

「確信があるわけじゃないらしいんだけど…何か私達の中の誰かを朝からずっと見てる二人組がいるって…」

「えぇーっ。怖いよね〜!本当なのかなぁ…」

 女の子達は肩を寄せ合いながらざわついた。

 その話を聞いた珠子だけは硬い表情になって考え込んでしまった。

「沙希…もしかして…」

「お、岡山っ!」

 珠子が口を開きかけると太一が割り込んで来た。

「何かあっても絶対俺が守ってやるからなっ!」

 太一が珠子の両手を握り締めて宣言すると周りが一斉に冷やかした。

 二人とも真っ赤になって太一は握っていた手をパッと離すと男子達とじゃれ合い始めた。

 珠子は赤くなった頬を手で押さえながら沙希の顔を見た。

 沙希は珠子が何を言いたいのか察知したように小さく頷いた。

「私もまさかとは思ったんだけど…考えられるよね…」

「でも二人組って…」

 珠子は不安気に下を歩く人達を眺めた。

 だがここからではとても一人一人の顔まではっきり見る事は出来なかった。


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