『姫の王子様』
ある夏の一日'08 P9

「ねぇねぇ!次はどれにするっ?」

 たった今スライダーを滑り終わったばかりの珠子が沙希の手を引いた。

 まるで子供のようにはしゃぐ珠子を沙希はクスッと笑った。

「お、岡山…次はアレにしねぇか?」

 二人に前に立ちはだかるように立ったのは太一だった。

 太一は他よりも大きいビッグワンスライダーを指差していた。

「ゴムボートのやつだよね!ねぇ!沙希もアレなら一緒に滑るよね?ねっ?」

「分かった!分かった!」

 沙希は珠子の熱い期待の篭った視線に負けて頷いた。

 たった今珠子が滑り終わったフリーフォールはどれだけ誘っても沙希はウンと言ってくれなかったのを根に持っているらしい。

「やったね!」

 珠子は嬉しそうに沙希の手に腕を絡めて抱き着いた。

 その光景を羨ましそうな視線で眺めているのは太一。

 太一の視線に気付いた沙希は勝ち誇ったようにクスッと笑いながらはしゃぐ珠子に引っ張られるように歩いて行った。

「クッソ〜〜ッ!」

「どぉ〜したのぉ〜?俺達も行こうよ〜!」

 地団駄を踏む太一に相変わらずのんびりした口調の日和が女の子に囲まれながら声を掛けてきた。

 半分涙目の太一は恨めしそうな視線を向けた。

「祐二と篠田はどこ行ったんだよ」

「ん〜そう言えば〜戻って来ないねぇ〜」

 日和はさほど気にしていない感じで答えた。

 祐二はこのフリーフォールを滑る前にカキ氷を食べたいと言ったきりどこかへ行ってしまった。

 一緒に付いて行った貴俊も戻って来ない。

「まぁ〜そのうち戻ってくるでしょ〜!行こ〜行こ〜。」

 日和は面白くない顔の太一の腕を引っ張った。

「珠子ちゃんとゴムボート一緒に乗りたいんでしょ〜?」

 日和は周りに聞こえないようにこっそり囁いた。

 太一はまるで火でも点いたかのようにボンッと顔を赤くした。

「お、俺は別にッ…」

「照れなくても〜せっかくのチャンスだもんねぇ〜?」

 照れまくる太一の背中を叩きながら日和は笑った。

 太一は「クソッ」と悪態を吐きながらも先を歩く珠子達を追いかけた。


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