『姫の王子様』
ある夏の一日'08 P3

「沙希?さっきからどーしたの?」

 駅からバスセンターへ向かいながら沙希は何度も後ろを振り返っていた。

「珠子のお兄ちゃんが付いて来てないかな〜と思って」

 クスクス笑いながら沙希が答えた。

 珠子は少し眉間に皺を寄せて嫌そうな顔をした。

「さすがに付いて来ないよ〜!でも家を出る時は大変だったんだよぉ。男は野蛮な生き物だとか股間を蹴り飛ばせーとかって」

「プププッ!さすがお兄ちゃんだよね!」

「私ももう高校生なんだからいい加減妹離れして欲しいなぁ〜」

 珠子はうんざりといった感じだった。

「さっきの電話は?」

「あっ、あれはね庸ちゃん!プール気をつけてねって」

 珠子の顔がパァッと明るくなった。

 何となく足取りも軽くなっているような感じがした。

「へぇ〜ヨウ様にしてはすんなり送り出したって感じ?」

「そう言われればそうかな?いつもお兄ちゃんと同じような反応なのに珍しいよね?」

 確かにいつもの庸介なら珠子が男が交じっている集まりに顔を出すのは激しく嫌がる。

 ましてや今回はプールなのに庸介はとても快く送り出してくれた。

「あらあら?早くも倦怠期ー?」

「そんな事ないよっ!浮気するなよーって言ってたもん」

「はいはい、ごちそーさま!」

 親友の沙希は珠子と庸介の仲を知る唯一の友人。

 同い年のはずなのにとても頼りになって珠子にとっては姉のような存在でもあった。

「あ、そうだ。佐藤が言ってたんだけど今日ね生徒会長とあのアイドル日和くんも来るらしいよ?」

「えぇーっ!佐藤くんって生徒会長と友達だったの?」

「ううん。サッカー部の友達が生徒会長と日和くんと仲が良いんだって」

 珠子と沙希は高等部からの入学組。

 学年の半分くらいは中等部からの人間だったがクラスが一緒になる事がないのでほとんど交流はない。

 その中でも生徒会長の篠田貴俊や友人でアイドル的存在の菅生日和などと話をするチャンスどころか彼らは雲の上の存在だった。

「どーしよぉ…緊張するよねぇ?」

「そぉ?だって同じ高校生でしょ?でも生徒会長とは話してみたいかな?」

「…沙希って生徒会長みたいな人が好み!?」

「違う違う!あんな完璧!って感じの人って興味ない?」

「そ〜ぉ?それを言うなら私はアイドルの日和くんかなぁ?女の子みたいに可愛いっ!」

 二人はまるで本物のアイドルと同じくらい遠い存在の同級生の話に花を咲かせながら待ち合わせ場所へと向かった。


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