『姫の王子様』
ある夏の一日'08 P4

「お、お、岡山…お、おはよーぉ…」

「佐藤くん、おはよう!」

「おーい佐藤?やたら"お"が多いし…隣には私もいるんですけど?」

 待ち合わせ場所に着いた二人を出向かえたの今回の主催者の佐藤太一だった。

 太一は二人を前にして…正確には珠子を前にしてしどろもどろになっていた。

 珠子しか見えていない太一に沙希は苦笑い。

「お、おぅ…郡山もおはよう!」

「はい、どーも。おはよう」

「もう沙希ってば!佐藤くん今日は誘ってくれてありがとね〜」

「お、お、おぅ…やっぱり高校生同士だと年も近いだろ…やっぱり年が近い方が一緒に遊べるっつーか…夏のイベントだって一緒に楽しめるっつーか…俺なら寂しい思いさせない…って…アハハ…俺何言ってんだろうな…ハハ…」

「あー佐藤ー盛り上がってるとこ悪いんだけど珠子ならもうあっちだけど」

 沙希は少し離れた所にいる珠子を指差した。

 珠子は同じクラスの女子ときゃいきゃい騒いでいる。

「あ、あはは…何だそれ…」

 太一はガックリとうなだれた。

「思いっきり空回ってるけど大丈夫?」

「うるせぇっ!空回ってるとか言うな!」

「誰のおかげで珠子が参加してると思ってるの〜?」

「ヴッ…」

 太一はプールに珠子を直接誘う事が出来ずに沙希を通して誘ってもらったのだ。

 一度振られているのにも関わらず太一はまだ何とかしようと思っているらしい。

「珠子の彼氏見たんでしょ?」

 沙希が呆れ口調で太一にこっそり囁いた。

 太一は嫌そうに眉間に皺を寄せた。

「どう見たって勝ち目ないでしょ?」

「あんな遊び人みたいな奴…岡山は騙されてるんだ。だから俺があんな男から守ってやるんだ」

「いやぁ…何度も言うけど無理だと思うよ?」

「そんな事分かんねぇだろっ!俺の方が同じクラスでチャンスは多いんだ」

 ここまで熱い男だったかと思わせるほど太一は拳を握り締めていた。

 沙希は溜め息を吐いた。

「まぁ…止めないけど。珠子のお兄ちゃんに会った事ある?」

「岡山って兄貴がいるのか?」

「あぁ…会った事ないなら…うん…一度会って洗礼を受けるといいよ…うん」

「沙ー希ーっ!」

 離れた所にいる珠子が大きく手を振った。

 沙希も気付いて手を振り返すと太一の方に向き直った。

「まー会ったら分かるよ。あの人に太刀打ちできるのは珠子の彼氏以外にありえないって事がね」

 不思議そうな顔の太一に沙希は謎の言葉を残して去って行った。


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