『姫の王子様』ある夏の一日'08 P2
「沙希は…改札で待ってるって言ってたっけ」
珠子が電車を降りて階段を上っていると携帯が鳴った。
流行りのJ-POPのサビ部分が流れる。
名前を見なくても誰からの着信かすぐに分かった。
「もーしもしっ!」
「おはよ。朝から元気だなぁ〜」
「へへっ!」
電話の相手は五歳年上の彼氏、庸介からだった。
庸介はモデルをしていて仕事で東京にいる事も多くデートもなかなか思うように出来なかった。
こんな風に電話で話すことも二人にとっては大切な時間。
「プール今日だっけ?」
「うん!今ね名駅に着いたとこだよっ。こんな朝早くどーしたの?」
「ん?タマが浮気しないように釘刺しておこうと思って」
軽やかに階段を上っていた珠子の足が止まった。
嬉しそうな顔をして口元を手で押さえた。
「す、するわけ…ないじゃん」
始まりは庸介からの告白でよく分からないうちに付き合い始めた。
けれど今は珠子の庸介への気持ちは「好き」という言葉ではっきりと表現できた。
それも「好き」ではなく「大好き」になっていた。
「そぉかぁ?夏は開放的だからなー俺みたいに相手してやれない彼氏より一緒にプールに行ける同級生の方がいいと思うかもしれないだろ?」
「そんなことないっ!だって…だって…庸ちゃんが一番大好きだもんっ!」
珠子は右手をグッと握って力んだ。
あまりに大きな声を出したのか怪訝な顔をして通り過ぎていく人達。
「そうか、そうか」
電話の向こうで庸介がククッと笑った。
珠子は恥ずかしくなって少し早足で階段を上り始めた。
改札が見えるとその向こうに沙希がいて珠子に向かって手を振った。
「タマ?」
「なーにー?」
「水着、俺に見せてくれんの?」
「恥ずかしいけど…庸ちゃんのお休みにプールか海に行けたらいいね!」
「俺とプール行きたい?」
「当たり前だよぉ!」
「そうかそうか。じゃあ気をつけてな」
「うん!またねっ」
珠子はご機嫌で電話を切ると携帯をパチンと閉じた。
「沙希っ!おっはよぉ〜!」
改札を通り待っていた沙希に手を振りながら駆け寄った。
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