『姫の王子様』
姫の王子様 P14

 近くにあったベンチに腰掛けるとグッタリと体から力が抜けて動けなくなった。

 庸介が珠子を置いていってからもう30分以上経っていた。

 あれから何度も何度も庸介から電話が掛かってくる。

 ブーブーブー

 また手の中で着信を知らせるバイブが手の中で震えだした。

 すぐに切れてメールの受信だと分かるとゆっくりと開きメールを確認した。

【タマごめん。埋め合わせは今度必ずするから】

(埋め合わせなんかいらない…)

 ため息を吐いて携帯を閉じた。

 忙しいからなかなか会えないのは仕方がないって分かってる。

 今日も楽しませようとしてくれてるのがすごい分かった。

 だからこそ…一人置いてきぼりにされた事にすごくショックを受けた。

 女の子達に囲まれる庸介を見て珠子は全然知らない人を見ているようだった。

 さっきまですぐ側にいてふざけて笑っててくれたのに庸ちゃんじゃない庸ちゃんがそこにいた。

(私は庸ちゃんのそばにいたらいけないのかな)

 時間が経てば経つほど色んなことを考え始めてジワッと涙が滲んだ。

 泣いちゃいけない…珠子は滲んだ涙をグィッと手で拭いた。

「お兄ちゃんに迎えに…」

 電話を掛けようとしてすぐに思いとどまった。

(なんて言おう…)

 今日がデートだって事は知ってるしこんな所に一人でいるって言ったら絶対理由聞かれる。

 お兄ちゃんの事だから大騒ぎしそうだし…。

 ブーブーブー

 また手の中の携帯が震え始めた。

 小さな画面に出た名前を見て慌てて電話に出る。

「も、もしもし…」

「知ってたかー。俺って超能力あるんだぜー」

 電話の向こうから聞こえる能天気な拓朗の声だった。

「プッ!何それー」

 あまりに突拍子もない嘘に珠子は吹き出した。

 大学生の拓朗は目の中に入れても痛くないほど珠子を可愛がり珠子も常に兄を頼っていた。

 それはまるでピンチの時に助けに来てくれるヒーローのように格好良くて頼れる存在。

「珠子がどこにいてもお兄ちゃんには分かるんだ」

 俯いている珠子の視界に足が入ってきて目の前で止まった。

 携帯を耳から離して顔を上げた。

「どーだ、すごいだろー」

 拓朗が自慢気に腰に手を当てて立っている。

 細めのブルーのセルフレームの眼鏡を掛けて髪は寝癖が付いたまま。

 首回りの伸びているTシャツに穴の開いたジーンズ。

 慌てて家を飛び出して来た事がすぐに分かった珠子は思わず吹き出した。

「お昼カレー食べたでしょ。」

 Tシャツの黄色い染みを見つけて指差した。

「ウワッ!全然気付かなかった!」

 慌てて黄色い染みを指で擦っている。

 見ている珠子がクスクスと笑う。


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