『姫の王子様』姫の王子様 P15
「髪もボサボサ」
「バーカ!これは今の流行りの髪形だ」
珠子に指摘されて胸を張っているが手櫛で髪を直している。
普通にしてたらすごい格好いいのに。
最近は就活の為にスーツを着ている事も多いけれど普段から身なりには気を使っている。
大学の中でも人気があるのを知っている、学祭に連れて行ってもらうといつも女の子達に囲まれる拓朗の姿を目にしてきた。
けれど目の前にいる拓朗は染みの付いたヨレヨレのTシャツにボサボサ頭、格好いい要素は何一つない。
庸介から連絡を貰ってすぐに飛び出して来たんだろう。
珠子にはそれくらいすぐに分かった。
それでも珠子にとってはどんな時よりも目の前にいる拓朗が一番格好良く見えていた。
「ほんと…ヒーローだよ」
「ん?何か言ったか?」
袖口にも付いているカレーを爪で引っかいていた拓朗が顔を上げた。
「んーん、何でもないっ!」
珠子は嬉しそうな顔で拓朗を見上げた。
拓朗も笑顔になって珠子の頭をポンポンと叩いた。
「折角だから飯でも食ってくかー!」
「じゃあカレー!」
立ち上がった珠子が人差し指を立てながら言うと拓朗が恨めしそうな目で見た。
指はまだカレーの染みを触っている。
「冗談だよーだ!」
声を上げて笑う珠子を見て拓朗は少しホッとしたように笑った。
拓朗はさっきまでの締め付けられるような胸の痛みも気持ち悪いほどの胸騒ぎもいつの間にか消えている事に気付いた。
「いーよ。珠子が食べたいなら俺も食べるよ」
笑いながら頭を撫でた。
すると珠子が急に辺りを窺うようにキョロキョロしてから手招きをした。
背の低い珠子と視線を合わせるために少し腰を屈めた。
神妙な顔をしている珠子を覗き込みながら拓朗の体に緊張が走った。
「ほんとはね…オムライスが食べたいの」
まるで秘密を打ち明けるようにヒソヒソと珠子が囁いた。
しかもその顔は真剣そのものだ。
「了解しました」
拓朗もまたヒソヒソと返事をして手を額に当てて敬礼した。
二人の目が合うと顔がだんだんと笑いを堪えているような顔に変わる。
「ぷーッ!アハハハッ!」
二人は同時に吹き出すと並んで歩き始めた。
(お兄ちゃん、ありがと…)
隣で楽しそうに笑っている拓朗に向かって心の中で呟いた。
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