『姫の王子様』
姫の王子様 P13

 どこをどう走ったのかも分からない。

 息を切らしながら走り回ってようやく追っかける人達を撒くと周りを確認しながら車に乗り込んだ。

 帽子を目深に被りサングラスを掛けてすぐに駐車場を飛び出した。

 店から離れた所で路肩に止めるとシートにぐったりともたれた。

「ハァーーーーッ」

 大きなため息を吐いた。

(クソッ、何だってこんな日に…)

 舌打ちをしたくなったがこうなったのは自業自得だった。

 久しぶりの珠子とのデートに浮かれて珠子の笑う顔が見たくて油断した結果がコレだ。

 今日最後に見た珠子の顔は泣き出しそうな顔だった。

「クソッ…」

 舌打ちをしながらポケットから携帯を取り出して開いた。

 画面には笑う珠子の顔。

 正月に珠子と拓朗と3人でふざけながら撮った写真だった。

 ボタンを押すとすぐに呼び出し音がして数コール目で繋がった。

「あー、俺。あのさ…頼みあんだけど」

「頼みー?と…泊まりは絶対ダメだっ!なんて言おうが許さねぇからな!」

 電話の向こうから捲くし立てるような大声が聞こえて思わず携帯を耳から離した。

 勝手な勘違いで大声を張り上げているのは珠子の兄拓朗だった。

「すぐにタマ迎えに行ってくんね?」

「はぁ?お前らデートだろ?」

「そうだけど…ちょっと…」

 言い出しにくくて庸介は言いよどんだ。

「ははーケンカか、ケンカしたんだろー?」

 拓朗は楽しそうに茶化した。

「悪ぃ…。バレて囲まれて…ほんと悪ぃ」

 搾り出すような声で呟いた。

 拓朗は沈黙したまま何も答えなかった。

 辛抱強く拓朗の言葉を待っていると大きく息を吐く音が庸介の耳に届いた。

「珠子はどこにいる」

 怒りを押し殺したような低い声だった。

 庸介は手短に場所を伝えるとすぐに電話は切れた。

 携帯を握り締めたままハンドルに突っ伏した。

「タマ…ごめんな」

 小さく呟いた声はかすかに震えていた。 


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