『姫の王子様』
姫の王子様 P12

(しまった!)

 庸介は慌てて持っていた帽子を被ったがもう既に遅かった。

 二人を見るように遠巻きに女の子の輪が出来ている。

 携帯を構えて写真を撮ろうとしている姿を見つけて思わず舌打ちしそうになった。

「よ、庸ちゃん…」

 心配そうな顔で珠子が見上げている。

(タマを巻き込む事だけは…)

 なるべく珠子を人目に晒さないようにと一歩前に出て珠子の前に立った。

 日曜のショッピングセンターは混雑していてどんどん人が増えてくる。

 ドクドクと心臓が早鐘を打つように鳴り始めた。

「あ、あのぉ…」

 すぐ側に立っている女性は珠子と庸介の顔を見比べて怪訝な顔をしている。

(マズイな…)

 嫌な汗がドッと出るのを感じながら必死に頭を働かせた。

「タクに迎えに来てもらえ」

 声を潜めて珠子に耳打ちをした。

 困惑する珠子の横でさっきの女性が携帯を取り出して庸介を撮ろうと構えた。

「すみません、店の中なので…」

 顔を手で覆いながら小さな声で断った。

「やっぱりヨウだ!ファンなんです!握手してもらえますかー?」

 確信を得た女性が嬉しそうな声を弾ませてた。

 周りで見ていた人もその声を聞いてどんどん輪を狭めてくる。

 突然の出来事で声も出なくなった珠子はキョロキョロと周りを見渡している。

(タマ…)

 怯えるような珠子の表情に胸が苦しくなったがもう一刻の猶予もなかった。

 庸介はそこから逃げ出すように早足で歩き出した。

「庸ちゃんっ…」

 後ろから自分の名前を呼ぶ珠子の声が聞こえた。

 立ち止まりたい気持ちを必死に押さえ込んでさらに足を速める。

 庸介の後を追うように十数人の女の子達がキャーキャー言いながらその後を追いかけた。

 声がその場からドンドン遠ざかっていく。

 そして静まり返った店内には呆然と立ち尽くす珠子の姿があった。 


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