『-one-』
温泉旅行! P6
一方その頃の陸はというと…
「着いたなら起こせよ!」
爆睡していてバスの中に一人置き去りにされていた。
「ひでぇよ。置いてくか?」
荷物を持ってロビーに行くと全員がかたまって何やら話しているのが見えた。
「何やってんの?」
後ろからひょいと覗き込む。
「な、何でもないです!」
「さ、さぁ宴会行きましょう!」
(なんなんだ?)
よそよそしい後輩達に引っ張られるように宴会場へと連れて行かれた。
「かんぱぁーーい!」
宴会がスタートした。
店じゃないから女の子抜きで気を使わないで済むとばかりに今日は無礼講でひたすら飲むと皆も気合が入っている。
陸も次から次へとビールを流し込む。
(そーいや、麻衣も飲んでんのかなぁ?)
30分に一回メールと言っておいたのに来たメールはまだ一通で旅館に着いた連絡だけだった。
陸は妄想の中の露天風呂の麻衣を思い出してヘラッとなった。
(風呂入った後にでも電話してみるかぁ)
麻衣の事を思い出してニヤニヤしていると陸の周りを後輩達が取り囲んだ。
「陸さん!さっきナンパした子達と後で飲むんですけど、行きますか?」
「俺はいーよ。」
「ほんとに行かないですか?」
「しつけーよ」
「可愛い子いましたよ?」
悠斗が耳元で囁いた。
「おまえ近いって。俺そういうの興味ないし」
(麻衣が一番可愛いに決まってる!)
「絶対、陸さんの好みなんだけどなぁ…」
(知るか!俺の好みは麻衣なの!)
「じゃあ俺あの子狙いで!」
「悠斗さんずるい!俺もあの子がいい!」
勝手に言ってろと陸は呆れた顔をして酒を飲む。
「でも…マジ可愛いですよね。白い肌にあの大きい目」
どうでもいいと思いつつしっかり聞いてしまうのが男の悲しい性。
陸は聞いていない振りをして耳を傾けていた。
「何よりあのぷっくりした唇!」
ぷっくりした唇…その言葉に思わず麻衣の唇を思い出してしまった。
ぽてっとした唇は触れると見た目よりもずっと柔らかくて気持ちがいい。
「陸さん、本当に行かないですか?」
もう一度念を押されて躊躇してしまう。
「ま、まぁ気が向いたら行くよ」
(あぁ…麻衣ごめん)
決して浮気する気なんかこれっぽっちもなくて麻衣とどっちが可愛いか見に行って来るだけだからと心の中で言い訳をする。
「そう言えば、陸さん彼女いるんですか?」
「ッ!?ゴホゴホッ!…っ」
心の中で麻衣に謝ってる瞬間に変な質問をされ飲んでいたビールが気管に入って激しくむせた。
「な、何だよ急に」
「いますよね?最近オーラ優しいし」
悠斗が顎に手を当てて目を閉じて分析をしているような顔をする。
「前は超クールな陸さんだったのに」
陸は変わっている自覚がまったくなかっただけに少し驚いた。
(愛が溢れ出てたりして…)
「でもそのおかげで最近また人気急上昇ってんだから俺達やってらんないっすよ」
確かに近頃指名が増えたのは事実でおかげで忙しくなり麻衣と会える時間が減ってきている。
「彼女ヤキモチ妬かないんすか?」
後輩達が一斉に陸の顔を見た。
「か、関係ねーだろ。俺風呂行ってくるわ」
陸は視線に耐え切れずに立ち上がって宴会場を後にした。
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