『-one-』

ホストとOL P7


 洗面所に手を付いた。

「ハァーーーーッ」

 肺の中の空気を全部吐き出すくらい長いため息を吐く。

(何やってんの…。なんでこんなにドキドキしてるの?)

 さっきからちっとも治まらない胸の動悸に服の上から胸を押さえる。

「たかがホストでこんな…」

 自分の反応が自分で信じられなかった。

 麻衣はまたため息を吐く。

(ホストは仕事。彼らは仕事中)

 来る人に夢を与えてくれるテーマパークのキャスト達と同じだと自分に思いこませる。

 すべては来る人を楽しませるための演出。

「そう!あれはホストの着ぐるみ。彼らも仕事で仕方がなくやってるんだから」

 鏡を見ながら自分に言い聞かせる。

「ヨシッ!騙されちゃダメ!しっかり麻衣!」

 麻衣は水を勢いよく出して顔をバシャバシャ洗うと頬を叩いて気合を入れた。

 顔を洗ったおかげが顔も心も少しクールダウンしていた。

 麻衣はドアの前で深呼吸をしてから席に戻った。

「麻衣さん、大丈夫ですか?酔われてしまいましたか?」

 誠が心配そうに声を掛けてきた。

 さっきの自己暗示が効いたのか麻衣は自然に笑顔になった。

「いえ…大…」

「大丈夫よ!麻衣はこんな量じゃ酔わないわよ!」

「美咲っ!余計な事言わないのっ!」

 人の話を遮るように美咲が口を挟んだ。

 麻衣が声を荒げて反論すると誠がクスクスと笑った。

 恥ずかしくなった麻衣はさっき座っていた場所にストンと腰を下ろす。

「お酒の強い方は大歓迎ですよ」

「儲かるものね?」

「違いますよ。一緒に飲むと楽しいという意味ですよ?」

 誠と美咲のやりとりに麻衣はクスッと笑った。

 美咲の軽口のおかげで強張っていた気持ちも少しずつ緩み始めてきた。

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