『-one-』

悠斗と麻衣 P5:side陸


 映画館なんて一番危険なのに、真っ暗であんなに密着してやりたい放題なのに!!

 二人が座る位置より少し斜め後ろを陣取った。

 さすがにまだ明るくてパンフで顔を隠しながら二人の様子を伺った。

 さっきから何か話しているようで悠斗の奴が話をして麻衣が真剣な顔で聞き入っているように見える。

 何の話してるんだろう、ま、まさか…告白か!?

 い、いや…落ち着け。

 麻衣に限って悠斗を受け入れるはずがない。

 麻衣は俺の事が好きなんだ、今回は仕方がなく悠斗に付き合ってるだけなんだ。


「なっ!!!!!」

 暗くなっていく館内で恐ろしい光景を目にした。

 自分の視力の良さを恨んだのははきっと後にも先にもこの時だけだと思う。

 悠斗が指で麻衣のかわいいおでことかわいい頬を触った後、麻衣が可愛らしく頬を指差したと思ったら悠斗がその頬にキスをした。

 間違いなくキスをしたんだ。

 麻衣も抵抗する事なく悠斗のキスを受け入れて笑っていたんだ…。


 俺はショックで映画なんか頭に入らずぼーっとしていた。

 それから尾行するのを止めてフラフラ歩いて自分の部屋に戻って来た。

 まさか麻衣が俺を裏切るなんて…そんな事考えてもいなかった。

 麻衣は俺の事を好きでいてくれてるって信じていたのに。

 戻ってくると俺の部屋の前に麻衣が立っていた。

「どっか行ってたの?何度も電話したのに…」

 電話が鳴ってる事も気が付かなかった。

 何だよもう別れ話に来たのか?

 早すぎるよ…。

 鍵を開けるといつものように麻衣は普通に部屋に入っていつもの場所に鞄を置いてキッチンに向かった。

「仕事まで少しだけ時間あるね。コーヒーいれよっか」

 少しの時間で別れ話をするつもり?

 そんな簡単なの?

「今日仕事休む」

「どうしたの?そういえば顔色悪いね。風邪でも引いたかな?」

 慌てて麻衣が俺の側に来て心配そうな顔をした。

「寝た方がいいね、ベッド行こうか」

 俺の手を引いて寝室に連れて行きベッドに座らせるとすぐに水と薬を持って戻って来た。

「はい、飲んで」

「なんで優しくするの?」

「は?」

「なんで優しくするの?最後だから優しくするの?」

「最後?何言ってるの?ほら、薬飲んで」

 俺に水の入ったコップと薬を渡そうとする。

「やだっ!麻衣が飲ませて!」

 そんな子供っぽい事をする俺の顔を見ながら笑った。

「病気だから甘えてるの?はい、口開けて?」

 薬を持って構えている。

「やだっ!口移しで飲ませて!」

 口を尖らせながら麻衣を睨んだ。

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