『-one-』

好きだから空回り P15


 気まずい沈黙のまま時間が過ぎていく。

「あ、あのぉ。お茶でも…」

「いいから座って」

 何とか場を取り繕うとしたが無駄らしい。

 怖い顔をした陸が部屋の中央に立っている。

 ドライブデートは中止になった。

 約束していた時間よりかなり早く麻衣の部屋に来た陸はもうずっと怖い顔をして立ったままだ。

「ったく、何から怒っていいかわかんねー」

「り、陸くん。ごめんね?昨日はちょっと飲みすぎちゃった…へへ」

 麻衣は首を傾げて可愛くペロッと舌を出した。

 だが逆に癇に障ったらしくすごい形相で睨まれて首をすくめた。

「ちょっと?自分のした事分かってるの?」

「はい…分かってます…」

「俺じゃなくて、悠斗がいいって?」

「俺に触られるのは嫌で、悠斗には抱っこしてもらいたいって?」

(うわぁ…すごい怒ってる…)

 陸は怖い顔で麻衣に詰め寄った。

 返す言葉もない麻衣は情けない顔で目を泳がせるしかない。

「…ったく絶対酒飲むな。分かった??」

 陸が拳を握って振り上げた。

 麻衣は叩かれる!とギュッと目を閉じて手で頭をかばった。

 体を小さくする麻衣を見て陸はフッと笑ると麻衣の隣に座って頭をコツンと叩いた。

(あっ…)

 叩かれなかった事にホッとした麻衣は軽口を叩いた。

「いつもはあんな風にならないから平気だって〜」

 また怖い顔をした陸にギロッと睨まれる。

(ひぃっ…怖いっ)

「それと誠さんに抱きついて泣いたって?」

(嘘ッ…そんな事まで知ってるの?)

 麻衣は何て答えていいのか分からずにしどろもどろになった。

「麻衣は酒飲むと男に抱きつくの!?」

「…違うっ、だって陸が女の子と抱き合ってたんだもん…」

 言葉尻が小さくなる。

 これじゃ仕事なのにヤキモチ妬いてるみたいで情けない。

「あれは…余興で仕方がなくやったの」

 そんな事は陸に言われなくても麻衣には分かっていた。

 けれど頭では分かっていても心までは言う事を聞いてくれない。

「…忙しくて私の所には一度も来なかったくせに」

 小さな声で愚痴を呟く。

 しっかり聞き取った陸が目を丸くした。

「…もしかしてヤキモチ妬いちゃったの?」

 その声があまりに嬉しそうなのに驚いて麻衣は顔を上げた。

 キラキラした期待を込めた目が麻衣を見ている。

「かーわいぃー!すっごい可愛いっ」

 陸はさっきまでの怒りはどこへやら一転ニコニコ顔で麻衣を抱きしめた。


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