『-one-』

好きだから空回り P13



「ちょっと、こっち来て」

 化粧室を出るといきなり腕を掴まれて奥に引っ張られた。

 驚く麻衣が振り向くと腕を掴んでいたのは陸でジッと見つめている。

「どしたの?みんなに見つかっちゃうよ?」

(うふふ…効果てきめん?)

「何やってんの?」

「…え?」

「何この服、全然似合ってないし。その化粧も…」

(何…聞き間違い?)

 けれど陸の視線は冷たい色で麻衣を見下ろしている。

 その表情からさっきの言葉は聞き間違いなんかじゃない事がすぐに分かった。

 麻衣はスカートの裾をギュッと掴んだ。

「今日は帰りなよ。後でメールする」

「嫌です」

「……なっ!麻衣、いい加減にっ…」

「ホストが客に早く帰れ?ったくふざけるんじゃないわよ!」

 麻衣は陸の手を振り解いた。

 何か言いかけて引き留めようとする陸を無視して席に戻ると一気にグラスを空けた。

 麻衣はドンッとグラスを置くと悠斗に向き合った。

「悠斗くん、この服似合わない?」

「めっちゃ似合ってますって!かわいい!」

「褒めすぎで怪しいんだけど…」

「麻衣さぁ〜ん、ほんとですって。ほんとかわいい」

(ほら…可愛いって言ってくれるのに)

 それなのに一番言って欲しい人が言ってくれなかった事実だけが麻衣の心を暗くする。

 陸に一言でも可愛いと言ってもらえたら素直に帰れたのに…。

「麻衣、飲みすぎだよ。送ってくから帰るよ?」

 美咲が麻衣の腕を掴んで引っ張った。

 麻衣は子供みたいにイヤイヤと首を振っている。

「やだ。帰らないもん!」

「ったく…悪いけどこの子立たせてやって、タクシーに乗せて連れて帰るから」

 呆れた美咲は悠斗に声を掛け近くにいたスタッフにタクシーの手配を頼んだ。

 悠斗は座り込むまいを抱えて立たせた。

「やーだー!やぁーだー!」

「麻衣さん、歩けますか?」

「悠斗くーん、麻衣が帰ってもいいのぉ?」

 麻衣はギュッと悠斗の上着を掴むと上目遣いで見上げた。

 悠斗の顔がボッと赤くなる。

「なに年下の男誘惑してんの!ほら、いくよ」

 美咲は軽く麻衣の頭を叩くと腕を引っ張った。

「ヤッ!」

 ギュッ−

 美咲の腕を払った麻衣は悠斗に抱き着いた。

 動揺した悠斗の体がグラリと揺れる。

 ガッターンッ!!

 二人はそのままバランスを崩してソファに倒れこんだ。

 麻衣の体はしっかりと悠斗の腕の中に守られていた。


[*前] | [次#]


コメントを書く * しおりを挟む

[戻る]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -