『-one-』

一人より二人 P4


(あー、くそっ)

 大きく膨らんだ息子のせいで、パンパンに張ったパンツのジッパーがなかなか下りない。

 陸は先にベルトを外そうとしたが、焦るあまり力任せに引き抜こうとした指がベルトのバックルを弾いた。

(しまった!)

 バックルは陸の手をスルリと抜けて、ドアノブがぶつかり大きな音を立てた。

 金属同士がぶつかる高い音の後に、部屋の中から声が聞こえた。

 ドアの方を振り返っている麻衣の顔は真っ赤で、隠れていた陸は目が合ってしまうと仕方なくドアを開けて足を踏み入れた。

「り……りりりりりっ……くっ!?」

「落ち着いて、麻衣」

 後ずさりながらも、手探りでリモコンを探す麻衣の必死さは、色っぽい雰囲気からは程遠い。

 とりあえずこの状況を収めるため、陸は麻衣の手からリモコンを取り上げると電源ボタンを押した。

 ようやく訪れた暗闇と静寂に、パニック状態だった麻衣がホッと息を吐いたのが分かった。

 激しい呼吸を繰り返す麻衣は、それでもまだ離れようとしているのか、フローリングの床を擦る音がする。

「麻ー衣、どーこ、行ーくのー?」

「意地悪っ!」

 泣きそうな声を出す麻衣、圧し掛かるようにして捕まえると、暗闇でもはっきり分かるほど近くから顔を覗き込んだ。

(う……っ、可愛い)

 涙を浮かべた瞳は上目遣い、恥ずかしさで上気した頬に、拗ねて尖らせた唇。

 圧し掛かられているのに、それでも逃げようと握った小さな拳で、胸を叩く仕草も可愛らしくて堪らない。

 麻衣のこういう所が好きだ。

 いや……違う、こういう所がなくても麻衣が好きだから、好きな麻衣のこういう所を見せられると堪らなくなる。

 これが例えば誰の目から見てもイイ女がしたとしても、そういうプレイとしか見られず、楽しめるかもしれないが、どこか醒めた自分が第三者的な位置にいると思う。

 でも、今は……。

(興奮とかいうレベルじゃねぇし!)

 気をつけていないと、昂ぶった気持ちのせいで、声が震えてしまいそうになる。

「麻ー衣ちゃん?」

 身体を横に向けた麻衣にギュッと抱きついたまま、耳の下の辺りに唇を寄せて囁く。

 もちろんこうされると弱いことを知っているから、わざと唇を肌に触れさせると、思っていた通り麻衣の唇から色っぽい吐息がこぼれた。

「感じちゃった?」

「知らないっ!」

 プイッと横を向く仕草は、どう見ても8歳年上には見えない。

「教えてくれないなら、俺が確認しちゃうからね」

 宣言しておいて、手をパジャマのズボンのさらに奥、サラサラとした手触りの下着の中へと突っ込んだ。

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