『-one-』
一人より二人 P3
暗闇の中でテレビ画面だけが、まさに妖しく光っている。
50型の液晶テレビの画面に映し出されているのは、ベッドの上で服を着た男が仰向けになっていて、全裸の女が男の頭を跨ぐように覆い被さり、股間に顔を埋めている。
男の頭の方から映していたカメラアングルが切り替わり、二人の姿を横から映したかと思うと、薄くモザイク(何があるのかハッキリ分かるほどで意味がない)の掛かった場所と女の口元がアップに映し出された。
(よりによって……それを見ちゃうの、麻衣ちゃん!)
油断していたというより、そんな物があることを忘れていた。
何かをオカズにして自己処理を迫られるほど困った記憶はない、使うのは面倒なプロセスを省いてただ抜きたい時だけだ。
店のみんなと騒いだ時に、バカな誰かがでかいテレビで見ようとか言い出して、その時に置いていったままの物だと思う。
彼女に見つかったのは複雑だけれど、ここで慌てて出て行って誤魔化すのはと、考えた陸は息を殺してピッタリとドアに張り付いた。
(ここはやっぱり、麻衣の反応を見るでしょ!)
こんなチャンスは滅多にない、あの麻衣が偶然見つけてしまったとはいえ、一人でこっそり大人向け娯楽ムービーを見ている。
もしかしなくても、これは予想以上のお楽しみが待っているような予感がする。
陸は視線をテレビから少しずらして、ソファの前でテレビに釘付けになっている麻衣の姿を捉えた。
薄暗くて見えにくいけれど、テレビの光に映し出された麻衣の横顔に、今度は陸が視線を釘付けにされた。
(なに、何でそんなに夢中なの!?)
微動だにせず食い入るように見ている麻衣の横顔は、薄く唇を開けて気のせいか頬を上気させているように見える。
陸は堪らず股間に手をやった。
いつもより余裕のない自分の身体に、早く中へ踏み込めと急かされている。
陸はドアノブに手を置いたけれど、動かさずに中の様子をジッと見守った。
もう少し待っていたら、麻衣の一人エッチが見られるかもしれない、そう思うと余裕のない息子の頭を押さえつけることが出来た。
テレビの中の男女が何度も体勢を入れ替え、服を脱いで仁王立ちになった男の前で女が跪いて、頭を激しく前後に動かしている間も、麻衣は身体を動かさなかった。
陸は焦れていた。
今すぐ踏み込みたい自分と、あるかないか分からない奇跡のような場面を目撃したい自分、激しい葛藤を繰り返していた。
(そろそろ、ヌキどころだろ! 男と女じゃ違うのか!?)
細身のパンツの中はあまりに窮屈で、根を上げそうな息子の代わりに、陸はドアに額を押し付けて息を吐いた。
もう何度そうしてきたか分からない右手を、パンツのジッパーに伸ばして触れる寸前で引っ込める。
画面では男が女の足を肩に乗せ、正常位で激しく突き上げていて、感じて一際高くなった女の声がドアを通して漏れ聞こえて来た。
(あーもう、限界)
部屋に踏み込むにしろ、決定的瞬間を待つにしろ、このままでは自分がもたないと感じた陸はジッパーに手を掛けた。
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