『-one-』

一人より二人 P2


 鍵を回す指が自然と気を配る。

 帰宅がどうしても深夜、時には明け方近くになる、一人で暮らしていた頃は気にならなかったけれど、鍵を開ける音というのは結構響くらしい。

 最近は鍵を開けたりシャワーを浴びる音で目を覚ますことのない麻衣も、二人で暮らし始めて間もない頃は、小さな物音を立てると目を覚ましていた。

 慣れない生活のためか、少ししてから体調を崩した麻衣のことを思い、それからは少しでも音を立てないように気を遣った。

 面倒と思わなかった、それよりも誰かと一緒に暮らすということは、楽しいだけじゃなくて学ぶことも多いと知った。

(そう思うと、誠さんと暮らしてた頃の俺って結構ひどかったな。あの人、文句は言ってたけど、よく我慢してたよなー)

 兄貴的存在の誠はやはり根っからのお人好しなのだ。

 玄関に入ると出迎えてくれるのは、小さなガラスベースに飾られた花。

 ほとんどが自分が麻衣に買ってくるもの、たまに麻衣も自分で買ってくることもあるけれど、今日はどうやらどこかで貰ってきたような、素朴なデイジーが飾られている。

 ホッと出来る空間に、帰って来たんだという思いが強くなる。

 日曜日までは堅苦しいスーツから開放されて、どこよりも居心地の良い我が家で、誰よりも愛しい麻衣と過ごす時間が待っている。

 少しでも早く仕事の匂いを落としてしまおうと、陸は玄関から一番近いバスルームへと足を向けたが、一瞬聞こえたような話し声に足を止めた。

 初めは気のせいかと思ったけれど、耳を澄ますとやはり小さな声というか音のようなものが聞こえてくる。

(リビングの電気は点いてないけど……)

 廊下とリビングを遮るドアのはめ込みのガラスから淡い光が漏れている。

 明るくなったり暗くなったりする光にきっとテレビの光だろうと思った。

(さては……今夜はDVDで夜更かしするつもりだな?)

 映画館に通い詰めるほどの映画好きではないけれど、麻衣は洋画それもラブストーリーが大好きだ。

 付き合って二人で見ることもあるけれど、そういう時は決まってコメディタッチの作品が多い。

 でも陸は知っていた。

 麻衣が一人でこっそり見る時の作品は、恋愛映画にしてはかなり濃厚なベッドシーンがある作品。

 きっと今もそういうものを見ているに違いないと思った陸は、一体どんな顔をして見ているのか見てやろうと、足音を忍ばせてドアに近付いた。

 ドアに近付くにつれて大きくなる音、紛れもなくベッドシーンであろうあられもない声だった。

(映画……にしては、なんかすげぇリアル?)

 違和感を覚えてドアに近付いた陸は、麻衣に気付かれないようにガラスの部分から中を覗き込んだ。

(嘘ッ!?)

 思わず声を出しそうになった陸は慌てて口元を手で覆った。

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