『-one-』
一人より二人 P1
緩いスロープをゆっくりと進み、車のライトで薄暗い駐車場が浮かび上がる。
陸は静かに車を進ませると、サイドミラーとルームミラーを確認しながら、指定の駐車場に車を停めた。
エンジンを切る前に、車内の時計をチラリと見る。
「まあまあ、かなー」
日付が変わる3分前の帰宅に、満足そうに笑みを浮かべた陸は車を降りた。
駐車場からマンションのエントランスへ向かいながら、携帯を取り出して着信もメールもないことを確認して電源を落とす。
「ようやく休みだっ!」
どうにか勝ち取ってきた久々の休日は三週間ぶりだった。
明後日の日曜日になれば、定休日ということで休日は待っていたけれど、ずっと休みなく働いていたおかげで我慢も限界を超えた。
ほぼ連日の同伴に加え、週五日のアフターをこなし、一番最初に根を上げたのは肝臓ではなく、三週間と三日、生理現象以外での出番がなかった自分の息子。
(このままいったら、間違いなく悟りが開けてた)
どんなに忙しくても麻衣とのエッチは別、だったはずなのに今回は色々とタイミングが悪かった。
昼間の仕事をしている麻衣に平日は無理をさせられない、というより帰宅後にエッチをするために起こそうものなら、ものすごく怒るからしない。
(そのために金曜日は早退、土曜日の休暇をもぎ取ったんだからな!)
今夜は麻衣が寝ていようが、遠慮なく寝込みを襲うと決めてエレベーターに乗り込んだ。
静かな上昇音のするエレベーターの中で、自分の中の欲望は信じられないほど激しく膨らんでいくのが分かる。
今は余裕がないけれど、麻衣を前にしたら余裕のある素振りを見せ、恥ずかしがる麻衣を翻弄する自分の姿を思い浮かべた。
陸は自然と緩んでしまった口元を手で覆うと、気恥ずかしさに咳払いを一つする。
(ガキじゃないんだから、俺もおちつけっての!)
上昇スピードが緩くなると身体がふわりと浮き、目で追っていた階数表示が自分の階で止まった。
扉がゆっくりと開く間、気持ちを落ち着かせるために深く深呼吸をした。
エレベーターから自分の部屋まで数メートル、浮かれた足元は気をつけていないとスキップを始めそうで、何となく変な歩き方になっているような気がする。
この気持ちはまるで同棲を始めた頃によく似ているなと思った。
今でもその気持ちは変わらないけれど、始まったばかりの頃は、麻衣が待つ部屋に帰ることが嬉しくて仕方なかった。
あまりに浮かれている自分にわざと澄ました顔で鍵を開けて入っても、時にはエプロン姿の麻衣に笑顔で迎えられたら、そんな努力はあっという間に水の泡。
店のみんなや客には見せられないデレッとした顔になってしまう。
もし今夜も麻衣が起きていてくれたら、間違いなくそうなる自分を想像した。
休日の前だから起きているか寝ているか微妙な時間、帰ってくると事前に伝えていれば別だけど、今夜はギリギリまで帰ってこられるか分からなかったのだ。
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