『-one-』

好きだから空回り P9:side陸


「誠さん、俺見たんですけど」

 店が終わると後片付けの最中の誠に話し掛けた。

 睨み付けるような陸の視線に誠は眉間に皺を寄せた。

「麻衣と何してたんですか?」

 他の奴に聞かれないように小さい声で尋ねた。

「お客様が少し胸を借りて泣きたいと言ったから貸しただけだ」

 誠はそう言うとすぐに店の奥に入っていった。

(麻衣が泣いてた?)

 頭が真っ白になった。

 泣かせたのは自分のせい?

 でも麻衣はホストの仕事をいつも理解してくれて一緒にいる時に電話が掛かってきてもソッと席を外して何も言わない。

 なぜだか言い知れぬ不安が胸をよぎった。

(麻衣に会いに行かないと…)

 外に出るともう空が明るくなっていて陸は麻衣の部屋へと急いだ。

 朝早く来すぎてインターホンを押すのをためらう。

 だが会いたい気持ちの方が強くてインターホンを押した。

 しばらくするとドアが開いて麻衣は出てくると陸の顔を見てから服に視線を移した。

「おはよ。今帰りなんだ?」

「あ、うん…」

「遅くまで大変ね。お疲れ様」

 麻衣は笑顔で俺を部屋に入れてくれた。

(なんだ…いつもの麻衣じゃん)

 自分の取り越し苦労だとホッと息を吐いた。

「ん〜〜〜。会いたかったぁ」

 入るなり玄関で抱きしめた。

 シャワーを浴びたばかりなのか濡れた髪からいい香りがする。

 麻衣の頬に手を添えてキスをしようとした瞬間、胸を押されて体が離れた。

「ま、麻衣…?」

「今日仕事なの。もう準備して出掛けないといけないから」

「分かった。でもちょっとだけ、ねっ?麻衣と話せなくて寂しかったんだよ。」

 麻衣の小さな体をギューッと抱きしめた。

「陸…遅刻したら困るんだけど?」

 麻衣が抑揚のない声で言う。

 いつもなら背中に回してくれる手も今日はダラリと下がったままだった。

 陸はただならぬ威圧感に離れるしかなかった。

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