『-one-』

好きだから空回り P8


「ありがとね、助かっちゃった」

 しりとりをしているうちに少し酔いも醒め店の中に戻ることにした。

「じゃあ、また飲もっか!」

「麻衣さんはウーロン茶でお願いしますっ!」

 ふざける麻衣に悠斗が頭を下げる。

 店に入るとやけに静かな曲が流れていて賑やかだった店内が静まり返っている。

「ね…どうしたんだろ?」

 隣にいる悠斗に話しかける。

「あぁ…チークタイムですよ」

 悠斗は何でもない事に言うと麻衣の肩を押して陸が見える位置へと連れて行った。

「バースデーイベントの時だけの特別です」

 フロアの中央には女性と抱き合う陸の姿。

 陸は女性の腰に手を回し胸に寄り添うように顔を埋めている女性の髪に頬を寄せている。

 静かな音楽に合わせるように体を揺らしていた。 

「だ、誰とでも踊るの?」

「いえ…多分陸さんが選んだ人だけじゃないっすか?」

「選んだ人…」

「まぁ誕生日までに選ばれるために皆さん通い詰めてましたけどね。じゃあ俺この後の準備があるんで」

 悠斗の言葉は最後の方は聞こえていなかった。

 胸が苦しくなった。

 二人を囲むようにいる客のほとんどは羨望の眼差しで二人を見ているが麻衣だけは悲痛な表情だった。

(辛いってこれの事だったんだ…)

 誠の言葉の本当の意味がようやく分かった。

「麻衣さん?麻衣さん?大丈夫ですか?」

 誠が心配そうな顔で覗き込んだ。

 誠の顔を見たとたん涙が出そうになって思わず胸に顔を埋めてしまった。

「誠さん、少しの間だけ貸して下さい…」

 声を殺して泣いた。

(来るんじゃなかった…)

 誠は優しく抱きしめ麻衣が落ち着くまで頭を撫でて落ち着くとタクシーを呼び麻衣を乗せた。


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