『-one-』

ある夏の一日'09 P3


 絶好の海水浴日和の晴天。

 昼過ぎに海に着いた麻衣と美咲は焼きつける太陽の日射しにすでにグッタリしていた。

「暑い……眩しい……」

 日を遮るものが何もない砂浜の入口で立ち尽くした美咲が呆然としながら呟く。

「なんか……帰りたくなって来た」

 続いて弱気な発言をした麻衣に美咲は気合いを入れて顔を上げた。

「何言ってんの! わざわざ水着着用で来たんだから帰れますかっ」

「わざわざワンピースの下に水着着せた来た狙いって実はそこなんじゃないの?」

「……さてと、みんなはどこにいるかなぁー」

 マンションまで迎えに来た美咲に無理矢理水着に着替えさせられたことを思い出し非難めいた視線を送る。

 分かりやすい誤魔化し方をする美咲にガックリと肩を落とした。

(本当にここにいるのかな……)

 地元の小さな海水浴場だから人も少ないと思っていたのに週末のせいか砂浜は色鮮やかなパラソルの花があちらこちらで咲いている。

 こんな大勢の中から陸を見つけられるのか少し不安になる。

 そう思ったがそもそも陸がここにいるという確証があるわけじゃない、イケメン揃いの海の家があるという情報だけを頼りにやってきただけ。

 せっかく来たのだから会いたいような、でも会いたくないような複雑な気持ちで麻衣はボンヤリしてしまう。

「さぁ、麻衣行くわよっ!」

「ちょちょっとぉ……」

 ボンヤリしていようが構うことのない美咲は麻衣の手を引くと人でごった返す砂浜を歩き始めた。

 熱い砂浜を歩きながら麻衣の目に飛び込んで来るのは水着姿の女の子ばかり。

 別に意図して目で追っているわけではないのに、やけに若い女の子ばかりが目に付いてしまい家族連れはいないのかと目を凝らしてしまう。

(なんか若い子ってすごい……よね)

 スタイルがいいのだからどんな水着でも似合う若い子達の水着は麻衣が見てもドキッとするような物が多い。

 上に何かを羽織って隠すようなこともせずよく焼けた肌を惜しげもなく晒している。

(やっぱり来なければ良かった……)

 自分の水着姿に自信のない麻衣の気持ちはみるみるうちに萎んでいく。

 そうなると美咲が電話で言った言葉が妙に現実味を帯びて来てしまう。

『イケメン揃いの海の家をビキニの若い女の子達が見逃すわけないよねぇ? ましてやあの陸くん……たとえ麻衣に操を立てているとしても実際問題ビキニの若い女の子に囲まれたりしたらぁ……』

 普通にしていても女の子が振り返る陸だけれどプライベートでは笑顔を振りまくことは決してない。

 でもそれが仕事となると陸の切り換えには見事としか言いようがない、女の子視線を釘付けにする笑顔と甘い言葉と軽いスキンシップは直接見てしまうと胸が痛くなってしまうほど。

 海の家での仕事が本当なら美咲の言う通り女の子達は陸のことを見逃すはずはない。

 麻衣の脳裏には少し大人びた微笑みの陸が親しげに女性の腰に手を回す姿が浮ぶ、それが水着姿に切り替わると麻衣は急に想像することを拒むように頭を激しく横に振った。

(そんなの、そんなの絶対……)

「あーいたいたっ! 麻衣、ほらあそこっ」

 グイッと強く手を引かれハッとした麻衣が顔を上げるとこちらに向かって手を振っている女の子達が目に入った。

 すぐに合流すると美咲は簡単に紹介を済ませた。

 美咲の会社の社員だという彼女達は私達よりも六歳も年下で見た目にも羨ましいほど輝いて見える。

「じゃあ早速なんですけど、いいですかー?」

「うんうん、お願いね!」

 美咲と彼女達は事前に打ち合わせをしていたらしくすぐに目くばせをした。

 今から何が始まるのか分らない麻衣が聞いても美咲は意味深な笑みを投げ掛けてウインクを返してきた。

「見てて……もうすぐ居場所を突き止めてあげるからね!」

 やけに自信たっぷりな美咲に首を傾げつつ、麻衣はなんだかおかしなことになったなぁと真っ青な空を見上げた。

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