『-one-』

ホストとOL P4


「嫌ッ!」

「えぇっ!ここまで来てそれはないでしょ!」

 回れ右をする麻衣を美咲が引き止める。

 学生の頃はハンドボール部に所属していたせいか美咲の握力はやたらと強い。

 ガッシリと麻衣の手首を掴んでいる。

「ほらっ!入ろっ!」

「ぜーーーったい!嫌っ!」

 麻衣はバッグを振り回しながら地団駄を踏んだ。

(ホストなんてホストなんて…)

「どうしてそんなに嫌がるのー?だって麻衣は…」

「もーっ!嫌なものは嫌って言ってるの!」

 美咲の言葉を遮って喚き散らした。

 麻衣は大きく手を振って美咲の手を振り払った。

「私、帰る」

「ちょ、ちょっと麻衣っ!」

 フンッと鼻息を荒くして元来た道を歩き出した。

 麻衣にとってホストやホストクラブがどうという話ではない。

 ホスト=口が上手い男という方程式が頭の中で成り立っている。

 そして口が上手い男=嘘つき男へと続く。

(口の上手い男なんて大嫌い。そう…口だけの男なんて…)

 脳裏に浮かぶにあの男の顔。

 思い出しただけでキィーッと叫びたくなった。

 ドンッ−

(痛っ…)

「すみませんっ…」

 怒りに任せて周りを見ずに歩いていた麻衣は前から歩いてきた人にぶつかった。

 鼻をさすりながら謝ると顔を上げた。

(うわぁ…えぇ…男の人だよね?)

 茶色の柔らかそうな髪、ツルッとしていてすべすべしていそうな肌、キレイな瞳…。

 そして美味しそうな唇…。

(ってそれじゃ変態!)

 ぶつかった相手の顔をうっとりと見上げていると後ろから声がした。

「あっ、陸くーん!」

 振り返れば美咲が笑顔でこっちに向かって手を振っている。

 もう一度振り返ると目の前の男の人が手を上げている。


 これが麻衣と陸の出会いだった。

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