『-one-』
3days P56
こういう人だから色んな不安を乗り越えて一緒にいることを選んだんだと、麻衣は改めて陸の優しさと強さを噛みしめる。
「陸……好き、いっぱい好き」
今日だけは素直にその言葉を伝えたい、麻衣は陸の胸に顔を寄せたまま小さく呟いた。
「うん。俺も……それとね、言いたいことがあるんだ」
真剣な声に思わず顔を上げた。
陸も肘で体を支えるようにして少し体を起こすと左手で麻衣の頬に触れる。
その瞬間、陸の瞳にフッと甘い色が浮かんだ。
それはいつものように大人びた表情も拗ねたような子供っぽさもない、ただ優しくてそれでいて照れくさいのかはにかんでいるようにも見える。
「俺を選ぶ時きっとすごい覚悟をしたと思うんだ。一度辛い思いをしたら二度目は嫌だから危ない橋なんて絶対渡らないと思うのに……」
「陸……?」
「俺を選んでくれて、ありがと」
「あ、ありがと……なんて、そんな……私は、だって……いつも陸が……」
驚く麻衣が返事に困っていると小さく笑った陸がコツンと額を合わせた。
「これからも、俺だけのそばにいるって言って? ずっと俺のそばにいるって言ってくれるのが一番嬉しい」
「うん……ずっとずっと、陸のそばにいるよ」
ようやく二人の顔に柔らかい笑みが浮かぶと自然と唇を重ねた。
触れた場所から言葉では伝えきれない想いが伝わる。
神様からの小さな試練を乗り越えた二人はまた少し見えない絆を強くした、この先にまた二人を試すようなことが起きたとしてもきっと大丈夫、今はそんな風に思うことが出来る。
名残惜しそうに何度も唇を触れるだけのキスを繰り返していた陸はようやく唇を離して麻衣を抱きしめた。
「じゃ……そろそろ続きしよっか?」
「続きって?」
すっかりロマンチックな雰囲気に酔いしれていた麻衣の耳にやけに現実的な陸の言葉。
うっとりしていた麻衣の瞳にニヤニヤしている陸の顔が映る。
「エッチに決まってるじゃん! まだ一回しかしてないんだよ! ほら、脱いで脱いでー」
調子を戻した陸は起き上がると麻衣のバスローブを脱がしに掛かった。
まるで果物の皮でも剥くようにバスローブを引き剥がそうとしている陸に麻衣は体の前でしっかりと合わせを握り体を揺らした。
「もう! 信じられないっ! どうしていつもそうなの!?」
「何だよー今日はエッチしてもいいって言ったじゃんか! イヤもダメもなしだろっ!」
「だからってこんな風にムード壊してまですることないのっ!」
無理矢理脱がそうとする陸から身を守るため、麻衣はベッドにしがみ付きながら亀のようにうずくまった。
襟を掴んだり、背中を揺さぶったり、ベルトを引っ張ったり、さっきの甘い雰囲気が嘘のように二人は半ばプロレスでもしているかのようになる。
「ちぇっ! こんなことなら最初からベッドですりゃ良かった!」
浴室で散々悪さをしておいてのぼせてしまった陸が悔しそうに舌打ちする。
本気で悔しがっている陸にどうしてそこまで……と呆れながら麻衣はそんな陸がやっぱり好きだと思ってしまう。
クスッと笑って油断しそうになった麻衣の耳に大きな声が飛び込んで来た。
「まだ夜は長いんだからなっ! このまま寝かせてやんないからなっ!」
「夜中なのに大きな声出さないの! 近所迷惑!」
ベッドの上で暴れ続けている陸に麻衣がピシャリと叱りつける。
さらに機嫌の悪くなった陸は悔しそうな呻き声を上げた、だがさっきまで脱がせようとしていた攻撃がピタリと止まる。
(あれ……どうしたんだろ?)
急に静かになった陸に麻衣は不思議に思いながら警戒を解こうとした。
「麻衣ちゃん、こういうのって何て言うか知ってるー?」
「へっ?」
含み笑いのする声に嫌な予感がした、だがそう思った時には遅かった。
「頭隠して尻隠さず、だよねぇ?」
「やっ、ぁん!!」
「ん! いい反応っ」
白いバスローブが捲ればっちり見えるピンク色の下着、うずくまった麻衣の後方は何とも情けないほど無防備な姿を晒していた。
そのチャンスを見逃すはずもない陸の手が遠慮なく撫で、油断しきっていた麻衣の口から可愛い声が漏れる。
「もう諦める?」
すっかり体から力の抜けた麻衣を仰向けにして陸が自信たっぷりに囁く。
敵うはずもないことを知っている麻衣はどうせ結果が同じならばと、「えいっ」と陸の首に抱きつくと油断していた陸にキスを仕掛けた。
「んっ……んんっ、……ま、麻衣?」
「先手必勝!」
チュクッと濡れた音を立て唇を離した麻衣はびきりの笑顔でウインクをしてみせる。
呆気に取られていた陸はポカンとしていたが、あまりに屈託のない麻衣の笑顔に吹き出すと顔をクシャクシャにして笑った。
二人の夜はまだまだ終わらない……。
end
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