『-one-』

3days P51


 淡いオレンジ色の光の下で薄く色付き始めた肌に何度も何度も唇を寄せる。

 濡れた髪をアップにして後れ毛が細い首に張り付いてるのが視覚的にそそられ、他の場所にもキスしたいと思いつつもそこから離れられずにいた。

「は……っ、ん」

 跡が付かないようにと軽く吸い付くだけで甘い声を漏らす麻衣。

 陸は麻衣の首筋に顔を埋めたままボディソープの柑橘系の香りとそれとは違うどこからともなく立ち上る甘い香りを吸い込み、背中を支えている手を滑らせて背骨をなぞる。

「あっ……っ」

 五感のすべてが満たされていく満足感。

 麻衣の体のすべてが知り尽くしどこに触れればどんな反応が返って来ると分かっていてもそれを感じるたびに陸は心の奥が満たされていくのを感じた。

「陸、陸……」

 向かい合うようにして座った麻衣の手が陸の頭を抱き寄せる。

 官能的な仕草には程遠いが麻衣の細い指が髪を梳き遠慮がちに胸を押し付けられると陸は加速度的に欲情した。

「どうしたいの?」

 もちろん何をして欲しいか分かっていての言葉。

 押し付けられた柔らかさの中にそれはあり、ほんの少し顔をずらせば唇で触れることが出来た。

 まだ指でも唇でも触れられていないはずのそこは形を変えて陸の愛撫を待ち焦がれている。

「……やっ、陸……意地悪しないで」

「意地悪? 麻衣のして欲しいこと聞いてるのに?」

 こんな時ばっかりと麻衣の唇が不満そうに尖り、拗ねたように陸の髪の毛を引っ張った。

 膝の上に乗った麻衣を見上げるように顔を上げた陸はあやすように尖らせたままの唇にチュッチュッとキスをする。

 唇を離した陸と麻衣が視線を合わせると麻衣の瞳が揺れ長い睫毛がフワリと揺れる。

(いじめたいわけじゃないんだけどね……)

 小学生の頃好きな子には意地悪ばかりしていた延長なのか、困った顔や泣きそうな顔を見たいと思ってしまう。

 それが日常的ではなくこうやって愛の営みをしている時に限っているのは大人になった証拠かもしれないと陸は思った。

 こういう時は決まって短いにしろ長いにしろこう着状態が続く、それは同時に麻衣が迷っている時間で決して陸が先に折れることはない。

 麻衣の困った顔を見ながら待つ時間が焦らされているのに楽しいわけは、この後に見せる麻衣の泣き出しそうなほど恥ずかしがる顔と声が待っているからだ。

「チュッ……ってして」

 陸はそれを聞いて「どこを?」と口を開くこともせずその願いを叶えた。

(それは反則でしょ……)

 舌足らずな甘えた声に見事に撃沈された陸は色付く蕾を口に含みながら口を開き途切れ途切れのあえぎ声を漏らす麻衣の顔を盗み見た。

 顔は年よりも幼い、それでも八歳年上だと思わせるのは自分を諌めどこかでいつも冷静だからかもしれない。

 それなのに……今目の前にいるのは同じ人物なのかと疑いたくなる。

 まるで少女のような稚拙な誘い方、これが麻衣じゃなかったらワザとしているとしか思えずさらに質問をぶつけたかもしれない。

 だが……麻衣にはこれが精一杯なのだ。

「気持ちいい?」

 口の中に含みながら聞くと麻衣は口元に手を当てたままコクコクと頷いた。

 いつもするように口に含んだまま舌先で周りをなぞり敏感になった頂きを突付く、反対側は手の平で柔らかく揉みながら指先で軽く弾いた。

「んっ! 気持ち……っ、もっと……チュッって、してっ」

(やばい……可愛すぎる……)

 本当は盛り上げるだけ盛り上げてベッドまでオアズケと考えていた陸、だがそんな当初の目論見はこの瞬間にあっけなく打ち砕かれてしまった。


「麻衣のエッチ」

「ん、……んんっ」

「そんなにやらしいことばっかり言って……ほんと、もう……」

 好きで好きで他のことなんかどうでも良くなってしまうくらい好きで、二人の気持ちの温度差がゼロになって同じ熱で互いを溶かし合えたらいいと思う、でも新しい麻衣を出逢うたびに自分の方が少し高くなってしまう。

 本当なら少し寂しいはずなのに、最近はそれが心地いいと陸は思っていた。

(こんなに好きって思える相手いなかった……)

 両親を失くして自然と冷えていった心は何かを真剣に想うことを拒みくだらないとさえ思う時もあった、その時が楽しければいいと投げやりになっていた時期があった。

 それが誠に出会い店の仲間と出会い居心地のいい場所を見つけ、そしてそこで出逢った麻衣、本当ならどこで出逢っても今と同じように好きになっていたと言い切りたい。

 でもそれは違うだろうと今は思う。

 いい加減で投げやりだった自分と麻衣が出逢ったとしてもきっと麻衣は自分のことを受入れはしなかっただろう。

「麻衣、麻衣……大好き、ほんと大好き」

「んっ……私も好きっ」

 腕の中にある確かな温もりにホッとして、この温もりを手離したくないときつく抱きしめる。

「麻衣……俺のって印付けてもいい? 俺と麻衣しか見えないところに……」

 小さな頷きは承諾の証、陸は麻衣の体を抱きしめたまま立ち上がった。

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