『-one-』

3days P47


 抱きしめられると胸が震えた。

 背中に感じた熱は一体どっちの肌の熱さなのか分からない、耳や髪に時折り触れる息とまるで縋るような腕の強さでさらに熱が増した。

「お願い……俺に見せて?」

 いつになく余裕のない陸の声。

 まるでそうしてくれないと生きていけないとさえ言い出しそうな苦しさを滲ませる声にどうしようもなく愛おしさを感じてしまう。

 その気持ちを恥ずかしさと天秤に掛けることなど出来なかった。

 ゆっくりと顔を上げるといつもより獰猛な瞳にすぐに掴まってしまい、喉の奥が引き攣れたように声を出せなくなってしまう。

 それでも肉食獣のような獰猛な瞳の中に寂しげな色が混じると麻衣は自由になった喉からようやく声を出した。

「恥ずかしい……よ」

「うん、知ってる。でも可愛い……恥ずかしがってる麻衣の顔が可愛くてでもすっごいエッチ。ほら……ちゃんと自分でも見て」

 目を逸らそうとすると甘い言霊がそれをさせまいとする。

 鏡の中の自分は細いのに逞しい陸の腕に守られるように立っている、いつもは見上げているはずの顔がすぐ隣にあることに少し変な感じがした。

 ゆっくりと自分の顔へと視線を移す。

「…………っ」

「ね? こんなにエッチな顔してるのに……それでも俺のこと煽ってないつもり?」

 陸の低い声が耳元で囁きかける。

 これが本当に自分の顔かと疑うほど見たことのない表情を見せていた。

 紅潮した頬、まるで熱でも出したみたいに潤ませた瞳、意識してないのにピンク色の唇は誘うようにわずかに開いている。

「続き……見せてくれるよね?」

 静かに肩紐に触れた陸の唇、触れた場所が熱くて火傷してしまいそうなのに体はその熱を待っていたかのように震えた。

 けれど陸の体が離れ背中に感じていた熱が無くなるとと急に心細さを感じた。

(もっとそばにいて欲しいのに……)

 いつもなら恥ずかしくて仕方がないことも出来てしまいそうになっている自分に驚いた。

 麻衣は体の横に下ろしていた手を背中に回しプツンとホックを外した。

 胸の締め付けが緩んで肩紐を腕から抜こうとすると、陸の熱い体がぴったりと背中に寄り添って腕ごと抱きしめられた。

「俺が、取ってもいい?」

 麻衣は素直に頷く。

 けれど陸の腕が腰の辺りに回されたまま動こうとしないことに首を傾げた。

「り……陸?」

 早く取って欲しいと願っているわけではないのに焦らされる時間が長ければ長いほど恥ずかしさが増していく。

 生殺しのような状態が続くならいっそのこと自分で取ってしまいたい衝動に駆られ、熱っぽく射抜き続ける陸の瞳を見つめるとその瞳の奥が妖しく光ったような気がした。

「……っ」

 予想もしていなかった不意打ちに麻衣の唇が吐息が漏れた。

 陸の唇がさっきと同じように肩紐に触れたと思ったら華奢な肩紐を銜えたのだ。

 唇で挟みこんで少し持ち上げるとそこに舌が差し込まれた。

 ザラッとした感触がほんの一瞬だけ肌に触れただけなのに体中に甘い痺れが走った。

(もう……立っていられない……)

 高熱を出した時のように体がフワフワする、膝にまったく力が入らない、けれど崩れそうになる体は陸の腕に支えられピクリとも動かなかった。

 舌で持ち上げられた肩紐をゆっくりと歯で噛むとそれを肩から腕へと静かに下ろした。

 その間ずっと陸の瞳は麻衣の顔から逸らされることはなく、とても官能的なはずなのにそれが神聖な儀式にも思えた。

 反対側も同じように下ろされた。

 今度は何をされるか分かっていて気持ちの準備が出来ていたはず、それでも陸の熱い舌がほんの一瞬肌を舐めた時には体の奥を痺れが走った。

「陸……」

 麻衣の唇からうわ言のように名前がこぼれる。

「可愛いよ……すごく可愛い……」

 体の前で重ねられていた陸の右手は何の迷いもなく体に巻きついていただけの下着を抜き取った。

 パサッと床に落ちる音が聞こえた時には、恥ずかしさでそむけようとしていた麻衣の顔は陸の手に掴まえられていた。

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