『-one-』

3days P46


 ノロノロとした動きを見せる麻衣に敢えて何も言わなかった。

 大人二人が立っても十分広い脱衣所で上半身裸になった陸はベルトだけ外すとそれ以上は脱がずに麻衣が脱ぐのを待った。

「先、入ってていいよ?」

 モタモタと服を脱ぐ麻衣がチラッと顔を上げた。

 頬が赤い、頬だけじゃなく耳もうなじも赤い。

 陸はドクンッと胸が鳴らし逸る気持ちを抑えながら首を横に振った。

「大丈夫だよ。寒くないし」

 明るい場所で自ら裸になることにまだ恥ずかしさを残す麻衣を見るためならたとえ今が真冬だってそう答えただろう。

 それほどまでに今の麻衣の表情から目を離せない。

 もちろん隅々まで知っている体が露わになっていくのを見ているのも好きだが、何よりも恥ずかしさに耐える麻衣の表情を見ているとそれだけで体中の熱が一点に集中していくのを感じる。

 これ以上は何を言っても無駄だと観念したのか麻衣はようやく下着姿になった。

 上下お揃いのサーモンオレンジの下着は太陽の光に晒されない白い肌によく映え、さらにその肌の白さをも際立たせている。

 何も身に付けていない姿を見たい気持ちもあるのに、何故だろうこれも男の性なのか最後の砦となる下着に身を包んだ麻衣の姿は扇情的だった。

 麻衣らしい可愛らしくて控えめなデザインのブラジャーは四分の三ほどまで胸を覆い、下から支えられた胸はカップの外でその柔らかさを主張するようになだらかな弧を描いている。

(焦らしてるわけじゃないのは分かってるけど……さ……)

 下着姿にはなったものの次にどちらを外すか迷っている麻衣は視線から逃れるように背を向ける。

 その仕草が体をくねらせ誘う妖しさのように陸の目には映った。

 陸は残っていた服も手早く脱ぎ捨てるともう一度柔らかな曲線を描く麻衣の後ろ姿をゆっくりと眺めた。

(顔も下着も可愛いくせに卑怯だろっ!)

 本人ですら気付いていない大人の色香、顔が見えないとそれがより色濃く感じられる。

 本当は麻衣自身の手ですべて取って見せて欲しい、けれどもう我慢も限界だった陸は背中を向けブラジャーを外そうとしている麻衣を抱きしめた。

「り、陸!?」

「麻衣ってば……誘うの上手すぎ。ね……そんなに俺煽って大丈夫?」

 いつになく気持ちが昂っているせいか声が掠れた。

 驚いた麻衣が体を捩るのも気にせず抱きしめる、麻衣の体はいつもより熱を帯びていた。

 羞恥は顔を染めただけでなく熱病に冒されたように体中を熱くさせたらしい。

「煽ってなんか……っ」

「なら自分で見てみる? 麻衣がどんだけエッチな顔してるか……俺のことどんな顔で誘ってんのか」

 これ以上の羞恥に耐えられず泣き出してしまうかもしれない。

 陸の頭の中には一瞬だけそんな考えが浮かんだものの本能には勝てずすぐに消え去った。

 抱きしめたまま洗面所へ移動する、距離にして二メートルはたとえ麻衣を半ば引きずりながらでもあっという間についてしまう距離だった。

「ね……ほら、顔上げて?」

 陸はパチンと洗面台の明かりを点けた。

 眩い白い光は鏡に映る麻衣の白い肌をより白く見せ、陸は鏡の中で自分の腕の中にいる小柄な麻衣をジッと見つめる。

「顔、上げて? 俺のことちゃんと見て」

 イヤと口で言えない代わりに駄々っ子のように首を横に振って見せる。

 けれど口で言うのも態度で見せるのも同じこと、陸は高さを合わせるように屈むと唇を髪に隠れた耳に押し付けた。

「俺のお願い、聞いてくれないの?」

 ズルイと言われてもこの際仕方がないと陸は開き直っていた。

 本当に麻衣が嫌がることは絶対にしないし出来ない、でも他の男には見せたことのないような顔を見たくて見せて欲しくてこんなズルイお願いを口にした。

 一時は疑ってしまった麻衣と元彼のこと、麻衣を見ていればそこに何かが生まれるなんてありえないしあんな最低の男と自分を比べられることすら拒みたい。

 でも……そんな相手でも消してしまいたい過去でも、事実麻衣はあの男に惚れていた。

 男に不信感を抱き不安に押し潰されそうになっても信じようとする、あの男に対する想いと健気さは羨ましいを通り越している。

 今抱えているのは昔の麻衣とその男へ対する醜い嫉妬、そんなもの必要ないと分かっていても割り切れない。

「お願い……俺に見せて?」

 俺だけしか知らない顔を見せて、見も心も全部自分のものだと感じさせて。

 陸の心のうちに秘めた想いが伝わったのか俯いていた麻衣はゆっくりと顔を上げた。

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