『-one-』
3days P35
「で、いくつなの?」
再び聞かれてしまうと今度は麻衣が答えるまで口を開かないとでも言いたげに智親の鋭い視線が麻衣に注がれる。
思わず口にするのを躊躇ってしまう自分に腹を立てた。
それじゃあ自分と陸との関係を恥ずべきものだと相手に取られてしまう、何か言われても年の差なんて関係ないと切り返せばいいだけだと躊躇う自分の背中を押した。
「二十……一歳」
「若っ!」
(何……やってるんだろう)
こんな風に言ったら相手の思う壺だって分かっていたはずなのに相手の喜ぶような言い方しか出来なかった自分が情けなかった。
案の定、智親はすぐに反応を示した。
世の中には一回り以上離れた夫婦だったいる、八歳差なんて大したことはないんだから。
智親から何を言われても言いようにどんなに気構えを強く持とうとしてもなかなか上手くいかない、それは麻衣自身も二人の年の差に少なからずコンプレックスを抱いているからだった。
そこを的確に突いてきた智親はある意味鋭いかもしれない。
「このまま付き合っていくつもり?」
「当然でしょっ!」
「十年経っても、同じこと言える?」
「…………」
言えるとすぐに答えられなかった。
単純計算で十年後の二人の年齢はすぐに出る、自分が三十九歳で陸が三十一歳だった。
八歳差なんだから十年経ってもその差が縮まることはないしそんな当たり前のことをワザワザ口にする智親の意図が計算をして出した年齢から検討が付いた。
(でも陸は……きっと……)
いくつになっても自分を好きだと言ってくれるはずだと信じたい。
その思いを揺さぶるように智親の声が麻衣の脳内と心中を掻き乱した。
「じゃあ今の麻衣は四十近いおじさんを相手に出来る?」
「それは……」
出来ると言えずに口篭ってしまった。
三十歳を目前にした麻衣にとって四十歳という年齢はあまりにも現実味がなかった。
自分の周りにいる四十歳を思い浮かべようとした、でもその答えは自分を勇気付けるようなものにはならない気がして途中で止めてしまった。
「いつまでも同じじゃいられない」
「……めて」
「あの日のことは本当に悪かったと思ってる。でもいい加減な気持ちじゃなかった、麻衣に惹かれる自分が止められなかった。あの後だって何度も何度も麻衣に謝ろうと思ったけれどどんな顔をして会えばいいか分からなかった」
(嫌だ……それ以上聞きたくない)
麻衣はその場から逃げ出したくて少しずつ後ずさる、けれど智親はその距離を保とうとして同じように詰め寄った。
これ以上聞いたらいけないと頭の中で声がした。
「麻衣から嫌われるような言葉を聞きたくなくて俺は逃げた。もう思い出さなくてすむかもしれないって思い始めてた、麻衣が幸せにしてたらそれでいいって思った、でもこの前偶然麻衣に再会して……」
麻衣は話を拒むように首を振りながらゆっくりと足を後ろに下げた。
だがすぐに道路脇の植え込みに体が当たってしまい逃げられないと分かると今度は智親の声を塞ごうと耳に手を伸ばした。
「やっぱり麻衣を忘れられない。あんな男といる麻衣を見たくない」
智親は耳を塞ごうとしていた麻衣の両手首を掴んでそれを遮った。
「もう、やめて……」
力のない言葉では智親を止めることは出来ないと分かっているのにそれ以上声を張り上げることも掴まれた手を解くことも出来ずにさらに二人の間が狭くなる。
「十年後、三十一になった彼は四十になろうとしている麻衣を今と変わらず好きだと言ってくれる? 今と同じように抱いてくれる?」
(もう止めて……)
もうこれ以上聞きたくない、麻衣は駄々っ子の子供のように首を横に振り続ける。
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