『-one-』
3days P23
「あーもう……恥ずかしい」
麻衣はまだ火照る頬を片手で押さえながら事務所を出た。
どんなに麻衣が口止めしたところで数日後には三人の口から陸に伝えられるはず、それで陸が反省して改めてくれたら言うことはないけれどそれはないと断言出来た。
(絶対喜んでワザと激しくしたりしそう……)
次の日に仕事がある日は早く寝かせて欲しいと一緒に住み始めた頃に伝えたことがある。
陸はそれをなるべく守ろうとしてくれている、だから二人が休みの日曜日は……麻衣は昨日のことを思い出して火照る頬をさらに赤く染める。
――エッチ! 今からエッチしよう!
昼食を終えてキッチンで後片付けをしているところに陸は胸を張ってそう言った。
週末は何かとやることがあり「昼間から嫌だ」と拒否をすると陸は何の迷いもなくこう言い切った。
――だって夜から始めたら寝るの遅くなるじゃん!
一体どれだけするつもりなんだろうと呆れる麻衣に陸が少しむくれたようにポツリと呟いた。
――麻衣は俺のだって確かめたい。分かってるけど……やっぱり他の男に触られてたのがムカツク。
それが土曜日の出来事を指していることはすぐに分かった。
カフェでイチャイチャした後にいつものようにごねて一緒に帰ると思っていた陸はすんなりと麻衣を地下鉄の駅まで送ってから仕事へ向かった。
帰宅も土曜の夜らしく朝方近かった。
実はそれがすごく意外で拍子抜けで少し物足りなさを感じていたのは事実、だからこの時の陸らしい言葉に素直に嬉しいと思ってしまった。
だが、それが間違いだった。
スーパーへ買い物に行きたいから夜にして欲しいと言うと陸は「途中で止めないならいい」を条件にそれを受け入れてくれた。
麻衣は自分の甘さに気付いたのは何回目かの絶頂を迎えて何気なく時計を見た時、日付はとっくに変わり午前一時まであと数分で麻衣は驚いて見間違いかと思わず目を擦ってしまった。
明日仕事だから……と切り出す麻衣に陸は子供っぽい膨れっ面になると……。
――途中で止めないって言った!
確かに約束したのは自分だから言い返せない、でもまさか夕飯も早々に食べて午後八時過ぎにベッドに入ってこんな時間になるなんて想像もしていなかった。
それでも……週の始めからはキツイかも、と思っているとそれを察した陸が小さくため息をつきながらボソッと呟いた。
――じゃあ、あと一回だけ。
ものすごい不服そうな顔で、いじけたように唇を尖らせて、そんな陸に絆されてしまった麻衣は「あと一回だけなら」と受け入れた。
(あれは……詐欺よね?)
麻衣は駅へ続く道を歩きながら陸のズルさに感心した。
最後の一回を始めてから陸は一方的に愛撫するだけになった、散々昂った体はすぐに蕩けその熱を冷ましたくて何度麻衣が求めても陸は優しい愛撫だけを続ける。
決して絶頂へとは押し上げない、それでも昂った熱は冷めることはなくどこまでも昇っていく。
もう限界に近い麻衣が泣きながら懇願すると陸は自身ではなく細く長い指で何度も何度も麻衣を絶頂に押し上げた。
何度も何度も意識を手放しそうになるたびに陸の甘い囁きで呼び戻されて「まだ終わってない」と新たな高みへ上らせようと熟れたチェリーのような頂きに吸い付いた。
触れられただけでも達してしまいそうなほど敏感になっていた麻衣の体はざらつく舌先で撫でられるとそれだけで快感のあまり体をビクつかせる。
それを満足そうに見る陸の体もかなりの我慢を強いられていた。
何度も放ったはずの欲望は限界を知らないのかこれが最初と思うほど硬く張り詰め、「やせ我慢」の証ともいえる雫を湛える割れ目を柔らかい麻衣の太ももに擦り付けた。
その熱さに麻衣は眩暈がしそうだった。
麻衣がその熱を体の中に受け入れることが出来たのは最後の一回を始めてから一時間後……そして気が付いた時には気だるいまどろみを邪魔する目覚ましの音だった。
目を覚まして体に残るのは激しい欲情の跡と倦怠感、それでも自分を抱きしめるようにして眠る裸の陸の無邪気な寝顔を見れば許してしまいたくなった。
(でもやっぱり……あれはズルイ!)
あんなの一回じゃないと今夜は陸に抗議をしなくてはと決意をする、それを早く実行に移すために麻衣は駅へ急ぐために足を早めた。
今日はサボリではなく休みの陸は珍しく仕事じゃないのに店に顔を出す予定で、けれど夕方までには用事は終わるから夕飯はどこか外で食べようと約束をしている。
(今日は美味しいもの! この際だからお肉とか高いものねだっちゃおう!)
消費してしまったエネルギーを補給したいし全部陸のせいだからと、麻衣は昨日のことを持ち出して高いものを強請るつもりでいるがそれで陸が反省する可能性は限りなくゼロに近い。
むしろ麻衣が自分に何かおねだりしようものなら背中に羽根が生えたかと思うほど喜びに飛び上がる。
自分が何をしても陸を喜ばせるだけだということにあまり自覚のない麻衣は少しでも早く陸にお小言を言おうと時計に目をやる。
「あ……もう電車来ちゃう」
時間を確認して目的の電車の時間が迫っていることを知ると麻衣は小走りになった。
あんなに一日だるくて何もしたくなった体が嘘のように駅へと向かう足は軽やかに地面を蹴る、だが突然聞こえて来た声にその足はその場に縫い付けられてしまったように動かなくなった。
「麻衣、会えて良かった」
それは一昨日も聞いた声で振り返ると見知らぬ車にもたれるようにして立っている智親の姿があった。
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