『-one-』

3days P20


 そういえば陸も強引だったりワガママだったりマイペースっぷりを発揮することが多いと思う。

 陸に連れられて入ったカフェの最奥の席に案内された麻衣はそんなこと思った。

 でもそれが嫌だと思ったことは一度もなかった。

(出逢った時の強引っぷりはどうかと思うけど……)

「麻衣、どうしたの?」

「うん? なんでもないよ?」

 向かい側に座った陸にボンヤリしている途中で声を掛けられハッとしながらも麻衣は笑顔を作った。

(その違いって何だろう?)

 考えてみもこれといった理由は思いつかない、でも挙げるとしたら自分が陸を好きだからかもしれない。

「お待たせしましたー」

 通路を席を遮るカーテンの向こうから店員が声を掛け中に入ってくる、入ってただのカフェだと思っていたのだが店の一番奥の数席は人目を遮ることが出来る半個室になっていた。

 それを知っていたかどうかは分からないけれどこの店もこの席も選んだのは陸だった。

 運ばれて来たケーキセットを見て麻衣は注文した時のことを思い出した。

「コーヒーとショートケーキと……アイスティとチョコムース」

 自分が決めるよりも先に陸が注文してしまった、普通だったら自分の分は自分で注文すると抗議するところ、でもチョコムースがいいなと思っていたから正直これには驚いた。

 麻衣は目の前に置かれたチョコムースに釘付けになっていた視線を上げた。

「陸? あのね……」

「ん?」

「チョコムースにしたのって……」

 言い掛けて少し迷ったように目を泳がせた麻衣はそのまま口を噤んだ。

(理由とか聞いたらやっぱり変だよね)

 陸が選んでくれて自分も食べたいと思ったならそれでいいし、この後仕事があるから私が迷ってる時間も惜しいと思っただけかもしれない。

 自分に都合のいい理由を探そうとしていたことに気付いて急に恥ずかしくなった。

「そういうとこ、可愛いとか思っちゃうんだよねー俺。言いたいことが顔に出過ぎだもん」

「えっ……り、陸?」

 目尻を下げてテーブルに頬杖をついて麻衣の顔を見ていた陸は立ち上がるとベンチシートになっている麻衣の隣に腰を下ろした。

 まるで自宅のソファのようにぴったり寄り添って座る陸の体を麻衣は両手で押し返した。

「ちょっ……ダメだよ。ちゃんと戻って……」

「誰も見てないって。覗こうとしなきゃ見えないから大丈夫」

「でも……」

「俺が大丈夫って言ったら大丈夫。それよりさ……麻衣がなに考えてたか当ててあげようか?」

 押し返していた麻衣の手を掴んだ陸はそのまま引き寄せて悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 麻衣が答えずにジッと視線を返すと陸はショートケーキが乗っている皿を自分の方へと引き寄せてフォークを取ると手の中で弄び始めた。

「どうして陸はチョコムースが食べたいって分かったんだろ?」

(あ、当たってる……)

 まさにさっき思っていたことを言い当てられて麻衣は目を丸くした。

「当たり?」

「うん」
 
「じゃあご褒美ちょうだい?」

 嬉しそうな陸がにっこり笑う。

 その満面の笑みに麻衣は何を要求されるのかと顔を強張らせた。

(周りから見えないとはいえ……お店の中だから変なことしないよね?)

 はっきりそう言い切れないところにかなりの不安があった、けれど麻衣はその心配がどうやら無駄に終わることに胸を撫で下ろした。

 陸はショートケーキの苺をフォークに刺すとそれを麻衣の方へと向けた。

「あーん」

「私に?」

 てっきりそれは自分がやる役目だと思っていた麻衣はちょっと拍子抜けしたように自分を指差した。

 それでも陸は相変わらずの満面の笑みで頷いてフォークを差し出す。

「ほら、麻衣……アーンして」

 向けられる期待に満ちた瞳と今にも唇に触れそうな位置まで近付いた苺に負けて麻衣は口を開いた。

(なんか……恥ずかしい)

 実はこれはする方よりもされる方の方がずっと恥ずかしいことに麻衣はこの時初めて気が付いた。

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