『-one-』
3days P19
「それで、今日は仕事どうすんだ?」
誠に聞かれ陸は麻衣に視線を移しかけたがすぐに顔を上げた。
「開店までには行きます」
「ほんとか?」
「えぇ、ちゃんと出ます。新規の客とったのに俺が居ないんじゃ意味ないんで」
真っ直ぐ顔を見つめて話す陸に珍しく誠の顔が嬉しそうに綻んだ。
誠はポンと手を陸の肩に置いた。
「やっぱお前はいい男だね」
そんな風に誠に褒められた陸が少しくすぐったそうに笑っていると彰光も「良かったな」と目配せをして肩を叩いた。
麻衣はいつになく大人に見える陸の姿を嬉しく思った。
最近はオフの陸しか見ていなかったせいか外で見る陸が少しだけ知らない陸を見ているような感じがした。
それでも不安は一つもない。
どこにいても陸が自分に向けてくれる視線は優しい、触れてくれる手も名前を呼んでくれる声もいつだって自分だけに向けられる特別な響きがあった。
「麻衣さぁぁぁぁん、本当にごめんなさいぃぃぃぃ」
誠と彰光に挟まれている陸を胸を熱くしながら見つめていた麻衣は突然の大声に体をビクッと震わせた。
見れば涙腺崩壊寸前の悠斗は抱き着きそうな勢いだが、それを無表情の響が腕を掴んで引き止めていた。
「怒ってないし、陸に知らせてくれなかったらどうなってたか分からないから悠斗くんには感謝してるよ」
「ほ、ほんとっすか!?」
「うん、ありがとう。響くんもなんか変なことに巻き込んじゃって……ごめんね」
「いえ……俺は全然何も出来なかったんで……」
悠斗と響にそれぞれ声を掛けた麻衣は口元に手を当てて少し考えてから思いついたように口を開いた。
「でも……どうしてみんながここにいるの?」
その言葉に五人はそれぞれ顔を見合わせると視線を交わした。
「それは……」
説明役を買って出たのは響だった。
「麻衣さんに置いていかれていじけてた陸さんが寂しさを埋めるためにゲームをしようと俺と彰さんを誘ったんです。そこへストーカーまがいの悠斗のバカが合流したんですが……まぁちょっとそこからはどうでもいいんで省きますが、外へ出た悠斗が麻衣さんを見掛け早合点して麻衣さんが浮気していると陸さんに知らせると、直ぐに陸さんが飛び出しそれを心配した彰さんが追いかけました」
メチャクチャな言われようにムッとした陸と悠斗だったが誠と彰光がそれぞれ二人の口を塞いだおかげで響はすんなりと先を続けた。
「俺と悠斗は店に残ってたんですがそこへ誠さんが出勤してしまい……仕方なく事情を説明するハメに。そしたら今度は誠さんがやたら楽しそうな顔で……そんな修羅場は後にも先にも一度きりだろう……なんて野次馬根性丸出しで俺たちを連れて追いかけたというわけです」
響以外の四人は説明役を響に任せたのは失敗だったと後悔した。
麻衣は淀みない響の説明に一応頷いて返した。
(なんか……よく分かったような分からないような……)
それでも自分があんな風に智親を相手にしなければ迷惑を掛けなかったのは間違いなく、麻衣はもう一度陸と四人に向かって深々と頭を下げた。
「本当にご迷惑をおかけしました」
「この中に迷惑なんて思ってる奴は一人もいないって。だから麻衣ちゃんもそんな暗い顔しないで笑って? 出ないと折角やる気を出した陸が仕事休む〜とか言い出しかねないからさ」
「はいっ」
彰光に優しい言葉を掛けられ麻衣はホッとしながら笑顔を向けた。
「彰さん……なんかおいしいとこ持ってきすぎだし、麻衣もなんでうっとりした顔で彰さんのこと見てんの!?」
「うっとりなんかしてないでしょ! もう変なこと言ったら彰さんに失礼でしょっ」
「はいはい、ラブラブな痴話喧嘩するなら場所変えてやれー。さて寂しい野郎共はお兄さんについて来ーい」
彰光は回れ右をすると右手を上げてヒラヒラ振りながら歩き出した。
「ついて行くと自分が寂しいって認めるみたいで嫌なんですけど、仕方がないですね」
「だな。俺はぜっんぜん寂しくなぇけどな」
最初に響が向きを変えそれに誠が続く、悠斗だけはいつまでもぐずぐずと立ち止まっていたが戻って来た響に襟を掴まれて引きずられる。
「お前が正真正銘の寂しい奴なんだから一番について行けよ」
「俺は寂しくなんかねぇ!!」
「はいはい。寂しいじゃなくて悲しい奴だったな」
「どういう意味だっ!」
相変わらずの二人のやり取りを見ているうちに四人の姿はあっという間に見えなくなった。
陸と二人で残されてしまった麻衣はチラッと陸の顔を見た。
「はい、麻衣ちゃんはこっち」
陸は麻衣の手を引くと四人とは反対の方向へ歩き出した。
「みんなはいいの? 仕事あるんでしょ?」
「まだ仕事始まるまで時間あるし、どうせ響達とゲームやるだけだったし、折角麻衣といられるなら俺は少しでも麻衣といたいから。それにさ……」
手を引かれながらオロオロする麻衣に答えた陸は立ち止まると斜め後ろを歩いていた麻衣を振り返った。
「このまま麻衣を一人で帰すなんて心配で出来ないよ」
「べ、別に……大丈夫だよ?」
「麻衣が大丈夫でも俺が大丈夫じゃないの。オッケー?」
そう言われては何も言い返せなくて麻衣は再び歩き出した陸に手を引かれると横に寄り添うように並んで歩き出した。
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