『-one-』

3days P16


 そうじゃなくてもすでに自分がまだ好きでいるという流れはどうやら智親の中で確定しつつあるように見える。

(ダメダメッ! 流されてはダメッ!)

「ほら早く行こうぜ」

「いい加減に――――!?」

 麻衣が肩に置かれた手を振り払おうと体を思いっきり捻じった瞬間だった。

 智親とは反対の方へと強い力で引っ張られた麻衣の体はバランスを崩し倒れそうになる、けれど伸びて来た腕が危なげなく抱き留めると麻衣の顔は柔らかいものに押し付けられた。

「いい加減にしてくんない?」

 その声を聞かなくても自分が誰の腕の中にいるのか分かった、よく知っている香りと優しく背中に回された手のぬくもりは服越しでもはっきりと感じられらた。

「何だお前!」

「麻衣、大丈夫? 怪我とかしてない?」

「う、うん……でも……どうして?」

 片手で麻衣をしっかり抱きしめて顔にかかった髪を優しく取る陸は心配そうな瞳で麻衣の顔を覗きこんでいる。

 陸の腕の中にいること、すぐ側に陸の顔がいること、麻衣はようやく体の力を抜いて陸に体を預け安心したように笑みを浮かべる。

(助けに来てくれた……)

 馬に乗っていなくても頭に王冠がなくても麻衣には陸が白馬の王子様にしか見えなかった。

「麻衣がね……」

「ん?」

 口を開きかけた陸が楽しそうな顔をする、我慢しようとしても込み上げる笑いを噛み殺していた。

 その理由が分からなくて首を傾げていると陸が顔を動かして後ろを示し麻衣は陸の体から顔を出して後ろを覗き込んだ。

 少し離れた所に見慣れたいつもの面々、響に誠に彰光それになぜか泣き出しそうになっている悠斗が揃っている。

「ま、麻衣さんっ……すみませんっ!!」

 泣き出しそうな悠斗が一歩前に出て頭を下げた。

「え……なに?」

「あのね、悠斗の奴……麻衣が浮気してます!! って写メ撮って俺に見せて来たの」

「う、ううう浮気ーーー!?」

 突拍子もない言葉が陸の口から出ると麻衣は声を裏返しながら叫んだ。

 もちろんその声がハッキリ届いた悠斗はもう土下座する勢いでペコペコと頭を下げている。

(どうして……私が浮気なんて……)

 そんなことするはずもないし、第一そんな風に勘違いされるようなこともしていない、それはきっと人違いだろうと思ったが嫌なことに一人だけ思い当たる人間がいた。

「もしかして……」

 麻衣はどうか間違いであって欲しいと願いながら陸の顔を見上げた。

「本当に浮気してたらどうしようかと思った」

「そんなわけない! 浮気なんてするわけないし、だいたいあんなのと浮気とか……誤解されたくないっ!」

「うんうん、分かってる。一目見ただけで浮気してる雰囲気じゃないって分かったし……麻衣が浮気するなんてありえない、でしょ?」

 いきり立っている麻衣を慰めるように陸は麻衣の髪を撫でた。

 陸が自分を信じてくれたことがこんなに嬉しいことだと改めて気付き、麻衣はここが昼間の大通りということも忘れて陸の胸に顔を埋めた。

「そんでさ……一つ聞きたいけど、あれ誰なの?」

 陸は自分に甘えてくる麻衣の可愛さに絆されながらも目の前に立って睨みつけてくる男のことは聞かないわけにはいかなかった。

 麻衣もそれは避けては通れないと覚悟を決めるとゆっくり顔を上げた、本当は言いたくないそんな顔をしながらも渋々口を開いた。

「元……彼」

「元彼…………ふーん、あ……もしかしてホスト嫌いの原因作った男?」

 察しのいい陸の言葉に麻衣は小さく頷いた。

(こんなことになるなんて……)

 陸が助けに来てくれたことはすごく嬉しい、でも自分にとってあまりいい思い出とは言えない相手には会わせたくなかった。

 昔とまったく変わらないあの調子じゃ陸に対して何を言い出すか分からない。

「おいっ! 俺のこと無視してんなよっ!」

 心配は当たった。

 さっきから存在すらもなかったことにされそうになっていた智親は険しい顔をしながら陸を指差した。

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