『-one-』

3days P15


 智親が掴んでいない方の手を伸ばしてくるのが見えると麻衣は空いている手でその手を思いっきり弾き返した。

「冗談じゃないわよっ!!!!!」

 思いっきり叫ぶと麻衣は右足で思いっきり智親の足を踏んづけた。

(一体、どこをどう誤解したらそう思えるの!!)

「イッッッ!!!」

 ちょうどいい具合にヒールの部分がヒットしたらしく智親の手が離れた。

(やった!)

 上手くいったことに心の中で小さくガッツポーズをすると今度こそ捕まらずにこの男の前から姿を消そうと踵を返した。

 どこどう解釈したあんな結論が出るのか一度その脳の構造を覗いてやりたい。

 ポジティブなのは長所かもしれない、けれど行き過ぎたポジティブはただの思い込みが激しいだけの勘違い、麻衣の目にはそんな風にしか映らなかった。

(もう、本当に今日は……)

 厄日だと心の中で言おうとすると今度はすごい強い力で肩を掴まれた。

「ったく随分会わないうちに変わったなぁ。でも……まぁそんな所も可愛いしヨリ戻してやってもいいよ」

 さすがに言葉は聞き捨てならないと麻衣は立ち止まった。

 振り返ると立ち止まったことに喜んでいるのかニヤけ顔の智親と目が合い麻衣は心からウンザリした。

(ヨリ戻してやってもいい!?)

 どうしてそんな上から目線でこれっぽちも思っていないことをさも私がそう願っているみたいに言えるのか分からない。

「ありえないから!」

「麻衣?」

「ヨリを戻すなんて絶対絶対絶対ないから! 私には付き合ってる人いるし、いなくても智くんとヨリを戻すなんて地球がひっくり返ったってありえないっ!!」

 思いの丈をすべてぶつけた。

 通り過ぎる人達の注目を浴びていると分かっていても止められなかった。

 この勘違い男を正気にさせることは出来なくたって構わない、でも自分の中にまだ気持ちが残っているという勘違いをされたままのは許せなかった。

 ここまで言えばどんなに鈍感なポジティブ男でも分かるだろうと思っていた麻衣は智親の顔が嬉しそうに緩んでいるのを見てギョッとした。

 その顔は付き合いを承諾した時の顔と同じだった。

「やっぱり麻衣に智くんって呼ばれるのっていいよな。うん……もう一回呼んでよ」

 興奮したせいで無意識のうちに昔の呼び方で呼んでいたことに気がついた。

 後悔したってもう遅い、目の前の男は前後の言葉をスルーして名前を呼んだことだけを聞いたことにしている。

「とにかく……ヨリを戻すつもりもないし金輪際貴方とは関わりあいたくありません!」

 もう名前を呼んだことは強引になかったことにした。

 それについて議論をした所できっと自分が疲れるだけでそれを正しい方向へ導くことは難しいに決まっている。

「離してよ」

 肩に置かれたまま手のを睨みつけた。

「やだよ。離すと麻衣また走るだろ?」

「当たり前でしょ! いいから離してよ、このままだと大きな声出すよっ!」

「大きな声って……麻衣もう出してるし。それよりさ車近くに停めてあるしこれからドライブしないか?」

「イヤですっ!」

「…………麻衣、焦らして俺をからかってるんだろう」

 どうしてこんなにも見当違いな言葉ばかり言えるのか不思議で仕方がない。

 麻衣は智親と言葉を交わすたびに気力を吸い取られているような気がしてグッタリしてきた。

(なんかもう面倒くさい……)

 言葉を返すことも面倒になってきて、こんなことなら一回だけドライブに付き合ってそれで相手が満足するならそれでいいかという考えさえ浮かんだ。

(どうせ何言っても自分に都合良くしか解釈しないし)

「俺さ、車買い換えたんだ。きっと麻衣も気に入ると思うよ、さっ行こうぜ」

 麻衣はさっき目の前を通り過ぎたワインレッドのツーリングワゴンを思い出した。

 それが智親の車じゃないと分かって何となくホッとした、もしそれが智親の車でそれを目で追っていたと知ればきっとこの男はヨリを戻せると確信するに違いない。

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