『-one-』

3days P11


 次の日もメールを二、三通やり取りして智親から電話してもいいかと尋ねられると麻衣は迷うことなくオッケーの返事を返した。

 二十分ほど話をしていると急に智親の口数が少なくなった。

「川上くん?」

 何か気分を害させるようなことを言ってしまったんだろうか、麻衣は途端に不安になり嫌な鼓動を立て始めた心臓を押さえるように胸の上に手を当てた。

 呼び掛けてもすぐに返事はなかった。

 ますます麻衣の心に不安は拡がり、携帯を持っている手はじっとりと汗を掻き始めていた。

「あのさ……」

「う、うん」

 頼りなく聞こえた声に驚きつつも沈黙が終わり麻衣はホッと胸を撫で下ろした。

 それからやや間があって智親は少し早口気味に麻衣に言葉を掛けた。

「明日、二人で会えないかな?」

「…………」

「ごめんっ、やっぱりいきなり二人とか嫌だよな! ごめん、今の忘れて!」

 突然の誘いに戸惑って返事をすぐに出来なかったことをどうやら断りと受け取った智親はさらに早口になって何度も麻衣に謝った。

(あぁ……どうしよう)

 このまま誤解されてしまうのは嫌だと麻衣は強く思ったせいかやけに大きな声で智親の言葉を遮った。

「あ、あのっ!」

「……えっ?」

「嫌……じゃないよ。二人で会うこと……」

 いざそう言うと恥ずかしくて最後の方は囁くほど小さな声になってしまった。

 ちゃんと自分の言いたかったことが伝わったのか不安になった、でもその不安はすぐに解消された。

「マジで!? 良かったぁ……こんなこと急に言って麻衣ちゃんに嫌われるんじゃないかなぁって思ってたんだ」

 そんな風に智親はとても好青年の印象だった。

 そしていつもよりも少しお洒落をして待ち合わせ場所に向かった。


「麻衣ちゃん、乗って!」

 智親はすぐに助手席を指差した。

 いきなり助手席に乗せられることに麻衣は少し抵抗を感じてしまった。

「え……でも……」

 麻衣が感じていた戸惑いは表情にも声にもはっきりと表れた。

 ぎこちなく目を逸らす麻衣に智親の声が沈む。

「何……俺が拉致るか心配なの?」

「そ……うじゃないけど……」

「警戒しないでよ。ちょっと麻衣ちゃんとドライブしながら話がしたいだけだよ」

「でも……」

 電話の時とは違う押しの強さに戸惑った。

 声は電話と同じ優しい雰囲気なのになぜかそう思えない、頭の中で危険信号が点滅しているような感じがした。

 でも次から次へと畳み掛けるように掛けられる言葉に麻衣はその理由が何なのかゆっくりと考えることが出来ずすぐに智親の声で引き戻された。

「そんなに嫌ならまた今度にするよ。俺……麻衣ちゃんに嫌われたくないんだ……」

 沈んだ声、俯いた顔、伏せられた瞳、その姿を見ると麻衣は胸が痛んだ。

 まだ知り合ったばかりといっても毎日のようにメールをしていたし、電話で話をしていても楽しくて優しかった。

(何を迷うことがあるの?)

 もう一人の自分がそう言って自分の背中を押した。

 その前に付き合っていた人と別れて時間が空いてしまったからきっと恋愛に臆病になっているだけかもしれない、そんなことじゃこの先いつまで経っても恋愛なんて出来ない。

 なにか理由を付けないと車に乗ることが出来ないとでもいうように自分にそう言い聞かせると麻衣は助手席のドアを開けた。

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