『-one-』

好きだから空回り P3


(何やってんだろ…)

 流しに手を付いてため息を吐いた。

 もっと年上の彼女らしく余裕のある態度でいたいのにこんな些細な事でヤキモチを妬いてしまう。

 あれは仕事、仕事なんだから…と自分に言い聞かせる。

「麻衣…さっきの話なんだけどさ」

 電話を終えた陸が気まずそうな顔で入って来た。

 麻衣はパァッと明るい笑顔を作る。

「ねぇ…お昼はパスタとリゾットどっちがいい?」

「えっ?あぁ…リゾットが食べたい」

「今日はチーズリゾットにしようかな」

 麻衣は鼻歌を歌いながらお米を研ぎ始めた。

 陸がどうしていいか分からない感じの表情でキッチンの入り口に立って頭をポリポリと掻いている。

 麻衣は手元に集中した。

 何かをしていないと余計な事ばかり考えてしまうのが嫌だった。

「麻衣、来週金曜日か土曜日店にこない?美咲さんも来ると思うし」

 陸が遠慮がちな口調で麻衣に声を掛ける。

 ズボンのポケットに親指だけを突っ込んで壁にもたれながらポケットを伸ばして手持ち無沙汰にしていた。

「何で?いいよ。日曜海行けるし」

「で、でもさ…最近店来てないじゃん?」

 手を止めて陸を見た。

 変に必死になっているのが気に入らない。

「陸はホストとして私と会いたいの?」

「……」

「はいっ!この話はおしまい!」

 陸が何か言いかけようとしたが麻衣に止められて口を噤んだ。

 麻衣は意地悪がしたかったわけじゃないがやはり少しでもホストでいる陸を見るのが嫌だった。

 でもこの話を途中で終わらせた事でとんでもない問題が起きるとはこの時の麻衣は思いもしなかった。


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