『-one-』

3days P5


 陸は店の所属ホストの中でも頂点にいる、けれど店のオーナーでもあり兄貴(保護者)的な存在の誠には頭が上がらない。

 それと同格いやそれ以上に頭が上がらないのが通称「彰さん」と呼ばれている暮林彰光(クレバヤシアキミツ)だった。

 彰光は店のキッチンチーフで裏方の一切を取り仕切り、オーナーの誠でさえ三歳年上の彰光には頭が上がらないことが多い。

 もちろん陸も誠に拾われた当初はこの彰さんの下でたっぷりとしごかれた。

 それもあって陸は誠と同じくらい彰光を慕っていた。

「よしよし、仕事熱心じゃなくて気まぐれでも営業したことは褒めてやるから、な」

 まるで子ども扱いだ。

 頭をなでなでと撫でられて陸は拗ねたようにその手を払った。

「そうですよね。腐ってもナンバーワンですし」

「だからさ、お前ねぇ……それ褒めてねぇだろ」

「いやいや、褒めてますって。色んな意味でナンバーワンですから」

 あくまでもクールな物言いの響に陸の眉間の皺が濃くなる。

(この姿を一度でいいから客に見せてやりてぇ……)

 普段はクールなこの響がなぜか客の前に出ると初な好青年に大変身だ、いくらキャラ作りとはいえこれは反則だと陸は常々思っている。

 しかも度々ナンバーワンの座を脅かされているからたまったもんじゃない。

「それでもナンバーワンと飲めるんだからな」

(そうだ、俺はナンバーワンだからな!)

 陸は少しでも自信を取り戻そうと胸を張る。

「そうだな。サボリもナンバーワンだしな」

「ほんと、そうですよね」

「あーもー!」

 痛いところを突いてきた彰光とそれに賛同するように頷く響。

 なぜかやられっ放しの陸はクスクス笑う二人に恨めしい視線を送りながら響だけには軽くボディブローを食らわせた。

「そう怒んなって! ほら行くぞ」

 その場の雰囲気を断ち切るように彰光が明るい声で二人を促して歩き出す。

 また上手いことまとめられたことに釈然としない陸も渋々ながら彰光の横を歩き響もそれに続いた。

 それにしてもただでさえ目立つ陸と響、先頭を歩く彰光も190センチ近くある身長と少し焼けた肌、纏う華やかなオーラは二人と並んでも見劣りしない。

 そんな三人は周りの視線を惹き付けながら歩いていたが、それもいつものことなのであまり気にしなかった。

 だがあまりに強烈な視線を向けられていることに三人は気付き始めていた。

「あれって……もしかして尾行のつもりか?」

 我慢出来なくなった陸がボソッと呟く。

 三人の後方二十メートルくらいの位置をずっと付いてくる人影。

 もちろん気付いていた響も呆れた表情をしている。

「本人は絶対気付かれてないとか思ってますよ。アホですから」

「そう言ってやんなよ。俺は結構抜けてるとこが可愛いと思うけどなぁ」

「つーか何でここにいるんだよ」

「そりゃあれだろ。陸&響レーダーみたいのが付いてるし」

 彰光の言葉にウンザリしたように陸が首を振る。

「いやぁ、場所と時間までは言わなかったのにやっぱりさすが……」

「響……お前が教えたのかよ」

「えぇ、でも会う予定があることだけですよ」

「それにしても……さすがにウザイっつーか……」

 最後の陸の意見は他の二人も同じだった。

 もちろんそれが愛情の裏返しから来る言葉ということは承知の三人、裏を返せば可愛くて可愛くて澄ました顔よりもオタオタしている顔が見たいくらい可愛いのだ。

 それを証明するかのように熱烈な視線を背中で受け止めている陸の口元に楽しげな笑みが浮かんでいる。

 陸は視線を前に向けたまま声を潜めて他の二人に思いついた悪巧みを告げる、聞いた二人の口元にも楽しげな笑みが浮かんだ。

 三人は無言で歩いていたまま曲がり角が来るとパッと走り出し右に曲がった。

「アァーッ!?」

 後ろから慌てた叫び声が聞こえる。

 三人は吹き出しそうになるのを堪えながら力いっぱい走り出した。

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