『-one-』

赤いシルシ P7


 髪と体を洗ってハート型のバスカプセルが浮かぶバスタブに入りながらすりガラス越しに見える麻衣の姿を眺めた。

 まだ今日の事情は聞いていない。

 声も上げずに静かに泣く麻衣を落ち着かせて、一緒に風呂に入ることを承諾させた。

「入るね?」

 遠慮がちな声のあと麻衣が入ってくる。

 もう何度も裸を見ているのになぜか風呂だけは嫌がる麻衣はやっぱり前屈み気味で俺に背中を向けるようにしてしゃがむと体に湯を掛ける。

 白い肌の上を湯が流れ落ちていくのを眺める。

「おいで」

 なかなかバスタブに入ろうとしない麻衣に声を掛けるとようやく入ってくる。

 背中を向けようとする麻衣の体を掴まえて向かい合って座った。

「うん、麻衣の顔だ」

 化粧を落としたスッピンの頬を両手で包み込む。

 それから唇を重ねるだけのキスを何度もして冷たい麻衣の体を抱きしめた。

「いつから……気付いてたの?」

 足の間に座り俺の体にもたれるように胸に頭を寄せている麻衣の小さな声。

 麻衣の細い肩にミルク色になった湯を掛けながら小さく笑う。

「そんなの、最初からに決まってるでしょ?」

「どうして?」

「んー? もしかして麻衣は俺の事をうまく騙せてると思ってたの?」

「だって……」

 今日の麻衣は可愛い。

 甘えるように俺の体に寄り添い、腰を捻るようにして背中に腕を回している。

「最初、店に入って来た時は分かんなかったよ。でもそばにいったらすぐに分かった。どうしてあんな事してるのか分からなかったから気付かないフリをしてみたんだけど……」

「それは……」

「あんな事して理由は秘密ってのは嫌だな、俺」

 拗ねたように呟けば麻衣が慌てて顔を上げる。

 俺の顔色を窺うような顔が可愛くて鼻の頭にキスをした。

「クリスマスだし……驚かせようと思って。でも……」

「でも?」

「最初からバレてるし、陸は先に帰っちゃうし……全然上手くいかなかった」

 グスッと鼻を啜る音がして麻衣の頬が胸に触れた。

 やっぱり俺の麻衣は可愛い。

「先に帰ったのはごめんね。前から送っていくようにお願いされてたから今さら断れなくて」

 そのおかげで俺は麻衣を出迎える事が出来た。

 逆ドッキリみたいになってしまったけれど、慣れない事までして俺を驚かせようと頑張った麻衣の気持ちはすごく嬉しい。

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