『-one-』

赤いシルシ P8


「でも……綺麗だったよ」

「ホント?」

「うん、化粧もドレスもすごくセクシーでドキドキした。他の奴に見られるのは腹が立ったけど……今日はそれでも良かったかな?」

「良かった?」

 麻衣が怪訝な顔をする。

 いつもだったらあんなに胸が開いて体の線が出るようなドレスを着たら真っ先に怒る。

 けれどこの余裕。

 麻衣が怪訝な顔をするのは当然だ。

「麻衣、気付いてないの?」

「え? 何が?」

 本当に気付いてないらしい。

 しきりに首を傾げて俺の目を覗き込んでいる。

「ここ、バッチリ見えてたよ」

 ウインクしながら麻衣の胸元を指差した。

 白い肌に浮かび上がった赤い痕は一昨日の情事の名残り。

 ようやく理解した麻衣は顔を真っ赤にして俺の胸に顔を埋めて小さな呻き声をもらす。

「こんな事なら背中にも付けておけば良かったね?」

「もう……恥ずかしい……」

「恥ずかしくないじゃん。俺に愛された証でしょ?」

「そうだけど……」

「今夜もいっぱい愛していい? 俺の麻衣だって分かるようにたくさん愛の印を付けなくっちゃ」

 すっかり臨戦態勢の体をアピールするように麻衣を抱き寄せる。

 けれど麻衣は眉間に皺を寄せて俺を見上げた。

「もしかして……これがあったから私って分かったんじゃないの??」

「あ……」

 バレてしまった。

 誤魔化そうと思ったけれどもう遅い、みるみるうちに麻衣の頬が膨らんでいく。

「麻ー衣、膨れないでせっかくのクリスマスだし愛を確認しよ?」

「今日はもう二十六日ですっ!」

 そう言いながら麻衣は手で掬った湯を俺の顔面に浴びせ立ち上がった。

 だからほんと可愛いんだって。

 風呂から出ることしか頭にない麻衣は俺の顔の前に真っ白なお尻を突き出している。

「あんなエッチなドレスを選んだ麻衣が悪いんだよー」

 扇情的な体勢の麻衣を再びバスタブに引きずり戻した。

 麻衣が暴れるたびにミルク色の湯が大きく波立ち、バスタブから溢れて零れる。

「麻衣だって今夜はエッチするつもりだったんでしょ?」

 一瞬麻衣の動きが止まり、そしてさらに激しく暴れ始める。

 どうやら図星だったらしい。

 あーもうなんて可愛いんだろう。

 なんでこんなに大好きなんだろう。

 緩みきった頬を戻すことが出来ずに、俺は風呂の湯が半分なくなるまで麻衣とじゃれ合い、クリスマスの夜は楽しく更けていった。

end

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