『-one-』
赤いシルシ P4
「大丈夫ですか?」
「えっ!? わっ!!」
「ボンヤリして……もしかして歌った俺見て惚れちゃった?」
戻って来た陸がクスクス笑いかける。
陸のソロが終わった後は再びホスト全員でラストクリスマスを歌っていた。
でもその間も私の頭の中では陸のことでいっぱいだった。
ギャフンと言わせる予定だったのにこれじゃあ……。
美咲の言った通りになってしまいそうなのに、それでも構わないと思っている自分がいる。
だって私を見て欲しい。
「エミさん?」
嘘の名前でまた胸が痛む。
違う……麻衣って呼んで?
いつもみたいに優しい声で甘く囁いて欲しい。
「あの……」
陸、私だよって言いかけた私は美咲の視線を感じてハッとする。
って何考えてるの!
何のためにこんな恥ずかしい格好して来たのか分からないじゃないっ!
少しセンチメンタルになっていた感情を抑え込んでようやく本来の目的に向かって邁進する決意を新たにする。
「それでさ……ごめんね、今日はさすがに俺も忙しくて……。折角だからもっと楽しんでいって?」
顔を上げた私に声を掛けた陸は別のテーブルへと行ってしまった。
え…………。
もしかして作戦失敗?
陸は風のように去って行き、離れたテーブルで新しいシャンパンのボトルを開けている。
もし私だよって言ったら……ここに居てくれたのかな?
ううん、そんなの勝手過ぎる。
誕生日のイベントと同じくらい忙しいと分かっているのに、私が思いついたことで陸に困らせたりしたらお店にも迷惑かけてしまう。
「大丈夫?」
さすがに心配そうに顔を覗きこむ美咲。
いつも心配ばかりかけちゃうな……。
私が美咲の肩にコテンと頭を乗せると優しい美咲の手が肩をポンポンと撫でた。
「私……バカみたいだよね? 子供みたいにはしゃいで……」
「いいんじゃない? たまにはハメ外すのも楽しいじゃない、折角綺麗な格好してるんだからそんな情けない顔しないの!」
パチンと音が出るほど勢いよく叩かれて私は顔を上げる。
「イイ女が台無し!」
「私……イイ女?」
「私の次にね?」
色っぽくウインクをして見せる美咲の表情に思わず頬が緩み、少しずつ気持ちが上向きになっていった。
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