『-one-』

コスプレ P6


「おぉぉっ……」

 いつものように引きずられるように連行された麻衣が皆の前に姿を現すと低いどよめきが起こった。

 突き刺さるような視線。

 もちろん約一名威嚇のオーラを放っている者がいて三秒以上眺めようものならやたら不気味な赤い瞳で睨まれていた。

「これはこれは……可愛い小悪魔の出来上がりですね」

 妙に海賊の衣装がしっくりきている誠は美咲と同じように満足そうに頷いた。

(小悪魔とか言われても…)

 何の罰ゲームですか、そう声を大にして言いたいと麻衣は心から思っていた。

 ――カシャッ

「何これっ! すっごい可愛いんですけどっ」

 携帯を構えた陸は夢中でシャッターを切っている。

 それに気付いた麻衣は慌てて陸の側へと駆け寄った。

「陸ッ! 写真撮らないでよ。 だめっ消してってば!」

「やだよ。こんなに可愛いのに記念に残さないなんてもったいないっ!」

「もーーーっ! いいから携帯貸してってば!」

 携帯を奪おうと麻衣が手を伸ばすと陸は携帯を持っている手を高く上にあげる。

 いくら背伸びしても麻衣に届くはずもなく麻衣は頬を膨らませて膨れっ面になると陸を睨み上げた。

「小悪魔ちゃんは人間の男しか誘惑しないのかと思ってたのに……吸血鬼も誘惑するつもり?」

 ニィッと笑うと鋭く尖った犬歯がはっきりと見える。

 まるで本物の吸血鬼のように妖しい雰囲気の陸は麻衣の腰を抱き寄せると首に掛かる髪をよけて白い肌を露わにした。

「悪魔の血を吸ったらどうなるのかな……一緒に地獄に堕ちて見る?」

「何言ってるの!」

 役になりきってるのか静かに囁くと麻衣の首筋に牙を立てた。

(ンッ……)

 チクッとした痛みが走ったがもちろん本当に牙を突き立てられたわけではなく強く吸われまるで自分の所有物だと言わんばかりの赤い痕を残した。

「も、もぅっ! こんなとこで……」

 だが周りの皆の方が心得たもので二人の方を見る事なくそれぞれに衣装の最終確認をしていた。

 陸はデレッとした顔をしながらこのまま連れ去ってしまいたいと言っていたが麻衣は返事を返さず何かを探すようにキョロキョロしていた。

「ねぇ、悠斗くんは?」

 さっきから姿の見えないことに気が付いた麻衣が陸に尋ねると楽しそうな顔をしながらフロアの奥を指差した。

 指の先には水色のモコモコした塊がソファの上に丸まっていた。

 一体どういう事なんだろうと思った麻衣は離れようとしない陸を連れてその塊に近付いた。

「悠斗……くんなの?」

 恐る恐る声を掛けるとゆっくりとした動きで悠斗は顔を上げた。

 膨れっ面の悠斗を見るなり麻衣は破顔したが隣に立つ陸は笑いを堪えるように肩を揺らしている。

「か、可愛……っ」

「嬉しくないっす!」

 麻衣に最後まで言わせず悠斗は声を張り上げるとまた膝に顔を埋めて丸い塊になった。

(似合ってる……)

 そう思ったけれど当然口に出来る雰囲気ではなかった、誰が選んだのか悠斗はスティッチの着ぐるみに身を包んでいた。

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