『-one-』

コスプレ P7


 先に帰宅していた麻衣は風呂を済ませていたがまだベッドには入らずソファに座りぼんやりと録画してあったドラマを見ていた。

 時刻は午前一時半過ぎ。

 多分もう帰ってくる頃だろうと麻衣は眠らずに待っていた。

 ソファの上で膝を立てていた麻衣は寝室から持って来た薄い掛け布団に包まっていた。

 少々アルコールの入っていた麻衣はほんの少しだけ恥ずかしさが消えて脱いだはずの悪魔の衣装を身に着けていた。

 それはもちろん陸を喜ばせるためなのは言うまでもない。

 ――ガチャ

 玄関のカギが開く音がするとパタパタと歩いてくる音が聞こえた。

「たぁだいまぁ…」

 リビングに麻衣の姿を見つけると陸は嬉しそうにソファにダイブした。

 衣装は脱いで昼間着ていた服を着て瞳もいつも色に戻っていたが髪だけは黒いままだった。

「待っててくれたぁ……麻衣ちょーやさしー」

「水、持ってこようか?」

「んー……」

 どれだけ飲んだのか分からないが久し振りの泥酔状態の陸を見て麻衣はキッチンから冷たい水を持って来た。

 よく帰って来れたものだと感心するほど陸の動きはおぼつかない。

 グラグラ揺れる体を支えながらグラスを持たせると陸は一気に水を流し込んだ。

「ぷふぁーーっ」

 麻衣はグラスを受け取るとテーブルの上に置いた。

 陸はトロンとした瞳で麻衣の顔をジーッと見つめていると急に「アッ!」と大きな声を上げた。

「ただいまのチュウしてないー」

 突然何を言い出したのか思う暇もなく麻衣は唇を奪われた。

 少し乱暴気味に唇を奪った陸はそのままの勢いで舌を滑り込ませて口内を探った。

 強いアルコール臭が麻衣の口内にも広がりそれだけで酔ってしまいそうになっていると陸は唇を離した。

「ねみぃー……もう寝るぅ」

「寝ちゃう……の?」

「んーー……何かあったーー?」

 もうウトウトと目が閉じかけている陸は声もふにゃふにゃとなっている。

 自分の格好にも気付かないほど眠いのだろうと察した麻衣はそのまま寝てしまおうとしている陸の体を揺すり寝室へ行くように声を掛けた。

 ふらつく足で何とか寝室まで辿り着いた陸はドサッとベッドに倒れこんだ。

 ベルトを外しジーンズを脱いだ陸に布団を掛けてからジーンズを畳んでいるとうつ伏せの陸が顔だけを起こして振り返った。

「夏じゃないしそんな格好じゃ風邪……ちゃんと、パジャマ……」

 そこまで言って再び陸はボフッと枕に顔を埋めるともう上げることはなくすぐに規則正しい寝息が聞こえ来た。

(何よ! 誰のために着たと思ってるの!?)

 麻衣は怒りで顔を真っ赤にしながら衣装を脱ぐとパジャマをキッチリ着こんだ。

 気持ち良さそうに寝ている陸の横に寝転がるとギュッと陸の頬を抓ってから掛け布団を肩まで引き上げて目を閉じた。

(二度とコスプレなんかしないっ!!)

 心の中で思いっきり叫んだがそれでも気が晴れずに掛け布団を頭まですっぽり被り枕を胸に抱えるとパンチを繰り出した。

 朝から忙しかった麻衣は持て余した怒りの感情に邪魔されることなく数分も経たないうちに眠りへと引き込まれていった。

end

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