『-one-』

コスプレ P5


「それ……って」

「どう? 結構いいと思うんだけど」

 陸は麻衣に向かってパチンとウインクして見せた。

 その瞳はいつものブラウンの瞳ではなく赤に染まり口元には下唇に刺さろうかというほど鋭い犬歯がチラリと見えた。

(吸血鬼……は分かるんだけど)

 麻衣が何よりも驚いたのは陸の髪の色と衣装だった。

「髪……黒?」

「あぁ、なんかこの方がいいんだって。それとコイツ見てやってよ!」

 ご機嫌な陸に引っ張られるように出て来たのは響。

 いつものまったく手を加えていない綺麗な黒髪は見事なシルバーアッシュに黒い瞳は髪によく似た灰色に近い色になっていた。

「何で……俺なんですか。これじゃただのコスプレですよ」

 かなり不服そうな響は終始前髪を弄りながら俯いている。

「なんで? すっごく似合ってるよ。うん、カッコいい」

 麻衣が響の前に立ちニッコリ微笑むと響は珍しく顔を赤らめて横を向いた。

 ほんの少しだけ素の響を見られたような気がした麻衣が嬉しそうに頷くと横から陸が口を挟んだ。

「だって、お前ハロウィンってコスプレする日だろ?」

(いや……間違ってないけどちょっと違うよね)

 麻衣は二人の前に立ち見比べた。

 陸は真っ白な服をキッチリと着こなしているが響は黒い服を少し崩して着こなしている。

 普段はまったく逆の二人だからこそかなりのインパクトがあった。

「でも……なんか見たことあるよね」 

「うちの社員にコスプレ好きの子がいて衣装協力してくれたのよ! 陸くんは絶対白い方が似合うと思ってたんだけど髪は黒でとかって言われたから急遽黒に染めてもらったの。響くんの方はこの髪色らしいのよね」

 思わず呟いた麻衣に自称キーラ・ナイトレイでエリザベス役になりきっている美咲はホラッと自慢げに二人の衣装の元となった一枚の絵を見せた。

(あぁ、やっぱり……)

 会社で後輩の子が読んでいたマンガにイケメンの吸血鬼ばかりが出ているのがあった、深夜アニメもやってるからと勧められた覚えがあった。

 二人は見事にその主人公の男の子二人に扮していた。

「それで……麻衣の衣装もあるんだけど!」

「い、嫌よ……この年になってこんな制服着れるわけないんだから!」

 何かを企んでいる顔で近付いて来る美咲に麻衣は絵の中央にいる髪の長い女の子を指差した。

「あぁ……違う違う。麻衣にはもぉっと可愛い衣装を用意して来たから。さぁ! 行こうね。陸くん楽しみに待っててねぇ」

「もちろん! 今回も美咲さんの手腕期待していますよ」

 麻衣の意思など聞き入られるわけもなく美咲に引きずられるように奥へと連れて行かれた。

 強引に着替えさせられた麻衣は自分の姿を見て呆然とした。

 黒いミニのスリップワンピース、黒のチョーカー、黒のロンググローブここまでならワンピースの短ささえ我慢すればいい。

 けれどワンピースの裾から伸びる足はアミタイツに包まれ栗色の髪には小さな黒い角がついたカチューシャ、背中からは黒い羽根が生えている。

「コレ……何ですか?」

「何って悪魔でしょ。はい、最後にこれを持ったら出来上がり」

 そう言いながら美咲が渡したのは先端がフォークのような形をした棒。

 無理矢理持たされた麻衣を少し離れたところから全身をくまなく眺め周りを一周グルリと回った美咲は満足な出来なのか大きく頷いた。

「さぁ、行こう!」

「絶対イヤッ!! いっつもいっつも私だけこんなの着せられるなんてイヤッ! 私だって海賊の方がいいのに」

 無理矢理連れて行こうとする美咲に麻衣は激しく抵抗した。

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