『-one-』

コスプレ P3


「こんにちは、誠さん」

「今日はありがとう。…なんか気を使わせてしまったみたいで」

 店に着いて麻衣を出迎えた誠はチラッと奥の方へ視線を送り苦笑いを浮かべた。

 フロアではテーブルの上に麻衣が持って来た料理の数々が並べ始められていて準備そっちのけでワイワイ盛り上がっている。

「俺はそこまでしなくてもいいっつったんだよ」

「でも! こういうのって文化祭の準備みたいで楽しいかなって」

 麻衣は目を細めて我先にと料理に手を出そうと牽制し合うホスト達を眺めながらクスクスと笑った。

 その言葉に陸と誠も視線を向けると笑顔で頷いた。

「それに……みんなと食事に行くと目立つから」
 
 本音はそっちではないかと陸と誠は思ったが口に出さずに輪になっている方へと歩いていく麻衣の後ろ姿を見送った。

 料理を出すのを手伝う麻衣はこっそりつまみ食いしようとする悠斗の手を母親のようにピシャリと叩き鍋を持たせると悠斗を従えて歩いて来た。

「スープ温めてくるから待っててね」

 二人の前で立ち止まると笑い掛けた。

「俺、皿と箸を運ぶの手伝います」

「ありがとう響くん」

 後から来た響が声を掛けると麻衣は笑顔で頷き二人を従えて奥へと消えて行った。

 誠はタバコに火を点けながらクスクス笑い始めた。

 麻衣の後ろ姿を見送っていた陸は不思議そうに誠を見た。

「つくづく変わった人だなと思うよ」

「まぁ父親があの竜さんですから」

「それだけじゃねぇだろ。もうすっかり奥さんって感じだな、旦那を立てる内助の功か?」

「そうだとほんと嬉しいんですけどね。でも麻衣は多分……世話を焼くのが楽しいんすよ。実家に帰る事もない寮暮らしのあいつらに少しでも家庭の味を……特に野菜を食べさせたくて仕方がないんですよ」

「俺にとってはありがたいよ。本当のいい女ってのは麻衣ちゃんの事を言うんだろうな」

 嬉しそうに笑う誠を見た陸は眉間に皺を寄せた。

 ムッとしながら挑むような視線を送る陸は人差し指で誠の胸をトンと突いた。

「俺のですから。妙な気を起こさないで下さいよ」

「なんだ……余裕ねぇな」

「誠さん相手じゃ余裕もなくなりますよ」

「心配なんかいらねぇと思うけどな」

 誠は笑いながらちょうど戻って来た麻衣に視線を向けた。

 麻衣は盆を両手で持って歩いてくると陸の顔を見てニッコリ笑った。

「陸! ご飯食べよう! 野菜たっぷりのミネストローネにしたんだよ」

「ほら……また野菜たっぷりとか言ってる」

 陸は苦笑いを浮かべているが全身から喜びのオーラを放ちながら麻衣を手伝いながら歩いていく。

 誰が見ても二人につけ入る隙なんてこれっぽちもなく誠はほらみろと呟きながら輪の中へと入って行った。

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