『-one-』

公認彼氏 P27


―月曜日

「ゴホ…ゴホッ…」

「麻衣先輩…大丈夫ですか?」

「顔も赤いし熱あるんじゃないんですか?」

 その具合の悪さは朝から金曜の夜の事を聞きだそうと待ち構えていた後輩達に声を掛けづらいと思わせるほどだった。

(どうしよう…熱も出て来たみたい…)

 関節が痛み悪寒が走る、風邪の症状は時間と共に顕著になっていく。

 こうなった原因は何となく分かるだけに自己嫌悪も激しい。

「もう帰った方がいいですよぉ」

「ご…めんね。そうさせてもらうね」

 これ以上は居ても仕事どころか心配ばかりかけて邪魔にしかなりそうになくて帰るしかない。

「誰かに駅まで送るように言って来ますね」

「うん、お願い……」

 返事を返してから事務所を出て行こうとする後姿に声を掛けた。

「あ、ごめん。ちょっと待って?」

 引き止めた私は携帯を取り出して短い電話を掛けた。

(陸はもういいよと言ってくれたけどやっぱり…)

「あ…迎えが来たみたいだから…ごめんね、後お願いね」

 三十分ほどで黒のエスティマが少し離れた所に止まるのが見えて立ち上がった。

 熱が出ているせいなのか立ち上がっただけで足元がふわふわする。

 車まで歩こうと足を踏み出したが力が入らずに事務所を出た所でへたり込んでしまった。

「麻衣先輩! 大丈夫ですかっ?」

 慌てたように脇を抱えてくれて思わず苦笑いを浮かべた。

(もっと近くまで…)

 携帯に手を伸ばそうとするとキィッと車の急ブレーキの音が聞こえて真横に黒い車が止まった。

 すぐに車から降りてきた陸が駆け寄って手を伸ばした。

「あ…陸…」

「麻衣? 大丈夫?」

 顔を見るとホッとして思わず手を伸ばした。

 額に手を当てて熱を診た陸は顔を顰めるとすぐに私の体を抱き上げた。

「朝、具合悪いんじゃない? って聞いただろ、無理してひどくさせてどうすんの!」

 陸は怒っていたがそれは私を思っての事と分かっているから素直に謝れた。

(でも…こうなったのは半分は陸のせいなんだからね?)

 そう思ったが今は口にする元気もなく胸の中にしまっておく事にした。
 
 陸は私を助手席に座らせるとシートベルトを締めながら声を掛けてた。

「このまま病院行くよ。保険証持ってるよね」

 その言葉に頷くと陸は「もう少し頑張って」と髪を撫で両手で頬を挟み込んだ。

 少し冷たい陸の手が気持ち良くて目を閉じた。

「え、エェーッ!?」

 忘れていたわけじゃないけれど、三人の驚愕の叫び声に車の外に顔を向けた。

 陸と私の顔を交互に見比べて目を白黒させている。

「嘘ついてごめんね…」

 それ以上言葉は出なかった。 

 助手席のすぐそばで後輩達と対面している陸の横顔が少し嬉しそうに見えてこれで良かったのかなホッとした。

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