『-one-』
公認彼氏 P16
「俺達の事知ってるのは美咲さんだけだろ? と言っても美咲さんは身内みたいなもんだし知ってて当然なんだけどさ」
それについては返す言葉がなかった。
陸の言うとおり私は美咲以外の友達に陸の存在は明かしていない。
聞かれても何となくうやむやにしていつも誤魔化して来ていた、もちろん会社の後輩達にもそうして来た。
その結果が今回の事態を招いたとも言える。
「理由があれば聞きますけど?」
「………」
私は起き上がって陸と向かい合うように座った。
それでも後ろめたさがあって陸の目を見る事は出来なかった。
(なんて言えば…)
「…言えるわけないよね」
その声は私を怒っているでも責めているでもなくただ自嘲気味に小さく笑っている。
それが逆に陸の胸の内を表しているで余計に辛い。
「あ…あのね…」
口を開いてみたもののその後どうしても言葉を続ける事が出来ない。
陸のことを紹介したくなかったわけじゃなくてしづらかっただけ。
それは互いの年齢だったり陸の職業だったり出会い方だったり、例えば陸と二人で並んだ時に友人達にどう映るかとか紹介して友達が好きになってしまったらどうしようとか…。
理由は色々あった。
「あーーー!! ムーカーツークー!」
突然、陸が大声を出しながら私の頬を両手で引っ張った。
「い、いひゃい…」
陸の手を離させようとするとさらに左右に引かれて痛みで悲鳴を上げた。
手を離した陸は重ねていた私の手を握った。
「こ〜んなにカッコいい俺をなんで自慢したくないの? それとも俺は自慢の彼氏じゃなくてダメ彼氏?」
ようやく陸の顔にいつもの意地悪な笑顔が戻った。
(時々ワガママで自分の都合だけで仕事サボったり、時間も場所もわきまえず抱き着くとことか…)
ダメな所はいっぱいある、でもそれ以上に良い所もあるし何より私を一番に考えてくれている。
「自慢の彼氏」
「とーぜん! でも俺を紹介しないし年上の彼氏がいるなんてウソをついちゃうんだ?」
「だ…から…」
「俺が年上で水商売じゃなかったら普通に紹介もしたし友達とも会社の子達とも彼氏の話しで盛り上がれたんだろ?」
「…でも私が好きになったのは年下でホストの陸だから」
「仕方がない?」
「そうじゃなくて…」
何を言っても陸は言い返してくる。
それも余裕の笑みを浮かべて握った私の手の甲の上で親指を円を描くように動かしていた。
もう怒っていないのは一目瞭然。
私をいじめる理由が出来たときっと心の中でほくそ笑んでいる。
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