『-one-』

公認彼氏 P14


「陸…ねぇっ…陸ってば」

 店から一度も手を離さずに陸は黙々と歩いていた。

 一番近くにあるホテルに入ると止めるのも聞かず勝手にチェックインしてしまった。

 12階まで上がりエレベーターを降りて黙々と歩いている。

「ねぇ…どうしてホテルなんか…」

 静かなホテルの廊下で大声を張り上げるわけにもいかず囁き声で陸に詰め寄る。

 だが相変わらず返事もせずに歩く陸は部屋の前に着くとすぐにキーを開けて部屋に滑り込んだ。

「陸ってばっ!!」

 室内に入りようやく私は大きな声を出した。

 部屋の中まで入って立ち止まった陸はゆっくりと振り返るとジッと見つめた。

 その瞳はさっきまでの怒りの色は消えていたが代わりに浮かんでいたのは拗ねた子供っぽさ。

(少し機嫌が直ったのかな…?)

 だが胸を撫で下ろした途端、強く押された体が二つあるうちの片方のベッドへと沈んだ。

「キャッ…」

 ベッドに強く体を叩きつけられ短い悲鳴を上げた。

 陸はベッドに上がると私の体を跨いで腕を押さえつけた。

「怒ってるんだよっ!!」

「うん…ごめんね…」

 直接的な口調で怒りをぶつけられるとなぜかホッとした。

 だんまりだったり冷たく突き放される方が心が締め付けられるような苦しさを感じる。

 感情を抑えているよりも全力でぶつかって来てくれる方が安心出来た。

 その安心感からか強張っていた頬が緩んでしまった。

「麻衣ッ!! 分かってるの!?」

 変化を見逃さなかった陸がすかさず怒鳴った。

 押さえつけられていた腕がベッドに埋まるようにさらに強く押し付けられた。

「…ごめんなさい」

 素直に謝罪を口にした。

 だが陸の顔から不機嫌な表情が消える気配はない。

「年上の彼氏…だって?」

「だからそれは…」

「あの場ではそう言うしかなかったって言いたいんでしょ?」

「分か…ってたんだ」

 意外にも理解してくれていた事に驚きながら返事を返すと陸は当然でしょとばかりにニヤリと口の端をを上げた。

「だからと言って良い事と悪い事があると思わないの?」

「で…でもね! 陸の仕事の邪魔になるような事はしたくなくて……」

 言ってから少しの沈黙。

 陸は押さえつけていた手を解放するとゴロンと私の横に横たわった。

 自由になった手を動かしながら陸を見た。

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