『-one-』

公認彼氏 P13


「……分かった。ごめんね」

 本当は陸と一緒に帰りたいよ。

 本当は私の彼氏は陸だって紹介したいよ。

 この気持ちは言わなくても陸なら理解してくれると勝手に思い込んでいた。

 まだ目を合わせようとしない陸は本当に怒っているんだと思った。

 掴んでいた手を離して陸の横を通り過ぎた。

「どうしてっ!」

 後から腕を思いっきり引っ張られた。

 振り返るといつになく怒った表情の陸が私を睨み付けていた。

「どうしてそんなに聞き分けがいいんだよっ!」

 掴んでいる手が熱い。

 怒りのせいか震え掠れた声で怒鳴られた。

「じゃあどうすればいいの?」

「俺のことなんてどうでもいいんだろっ!」

「そんな事言ってないっ! 私はいつだって陸の事を思ってる! すごくすごく大切だって思ってるっ!」

「俺のこと思ってるなら…どうして俺の気持ちが分かんないんだよっ!」

 気が付いたら二人で激しく言い合いを始めていた。

 騒ぎを聞きつけたスタッフが二人を止めようとするが二人の勢いに負けて遠巻きに見守る事しか出来なかった。

 私は昂った気持ちを抑える事が出来なくて陸を睨みつけた。

 陸もまた怒りを抑えきれないまま私を睨みつけている。

「いい加減にしろ。営業中だぞ」

 二人に少し冷静さを取り戻させたのは誠の声だった。

 スタッフの一人に呼ばれて現れた誠は呆れた顔をしながら二人の顔を交互に見た。

「痴話喧嘩なら外でやれ。陸、お前はもう帰れ」

 何も言い返せない陸とようやく我に返った私は誠さんに裏口から追い出された。

 薄暗い店の裏口に立ったまま私達は一歩も動く事が出来なかった。

「先…帰ってるね。本当にごめんなさい」

 これ以上怒らせる事も事態をこじらせる事もしたくなかった。

 二人とももう少し冷静になってから私の気持ちを陸に伝えた方がいいと思った。

 けれど陸は私の腕を掴むと歩き始めた。

「り、陸…離して…」

 陸の左手は痛いほど私の右手首を掴んでいた。

 その力の強さが陸の怒りの大きさに比例している事は分かっていた。

 けれどそれよりも痛そうだったのは陸の横顔だった。

 怒っているはずの陸の横顔は今にも泣き出しそうで痛みに耐えているようにも見えた。

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